28 俺にすら勝てない人間には渡せない。
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家に帰ると、今日もソファーにフェイが寝そべっていた。
「――――フェイ?」
家にいるのに、なぜかフェイは人の形をとっていた。
そして、なぜかとても具合が悪そうに見える。
「出会ってしまったのか。光の聖女に」
「……フェイ」
フェイの言っているのは、ヒロイン、アイシラ様のことだろう。
私の魔力が枯渇したということは、フェイの力が減ってしまうということだ。
「待っていて!」
私は、決意を固めて、父の執務室の扉を叩く。
今日は、S級冒険者の遠征から帰って、領主としての仕事をしているはずだ。
腕輪をはめてしまえば、フェイの力が減ってしまうことももうない。
「お父様!」
「ああ、久しぶりだな。ルルちゃん。元気だったか?」
「腕輪をください!」
その瞬間、父の雰囲気が大きく変わる。
ビリビリと感じる覇気。
決して超えることができない壁があるのだと、思い知らされる。
「そうか……。殿下は覚悟を決めたのか」
なぜか父は、愛剣を手にしてマントを羽織った。
どういうことなのだろう。私は、例の腕輪を渡してほしいだけなのに。
「お父様……?」
「ルルーシア、お前もちゃんと覚悟を決めたのか?」
「――――え?」
「その腕輪をはめるということは、アレス殿下とともに歩む未来を選ぶということだ。この後は、もう引き返すことができない。何があっても」
私は、ただアレス殿下のそばにいたいだけ。
アレス殿下が、非業の死を遂げたりしないように守りたいだけ。
「……殿下のことを本当に守りたいなら、俺と一緒に彼の前から消えるべきだ。隣国につてがある。隣国で一緒に冒険者として暮らそう」
「お、お父様……」
「俺なら、どんなことからもルルーシアのことを守ってやることが出来る。ルルーシアも、アレス殿下のそばから離れれば、力を使うことが出来るし、フェイが弱体化してしまうこともない。……殿下は、ルルーシアから離れれば強い。おそらくS級冒険者にもあと少しすれば手が届くだろう」
そのことを、何度も考えた。私が、アレス殿下から離れさえすれば、きっとアレス殿下は自分の身は自分で守ることが出来る。もしかしたら、王都を襲う未曽有の災害さえ、アレス殿下がいれば大丈夫なのかもしれない。
――――それなのに。
『ずっと一緒にいようね? ルルーシア』
――――私だってずっと一緒にいたいです。
真っすぐ私の瞳を見て笑ってくれたアレス殿下のその言葉に、私は、まだ返事をしていない。
『好きだよ。ルル』
――――私も、好きです。アレス殿下。
その言葉にすら返事をまだしていない。
そんな中途半端な私に、魔法が使えないハンデを背負ってすら、アレス殿下は約束してくれたから。
『ルルーシアが望んでくれるなら、なってみせる』
――――私にも望んでください。強くなってみせる。
アレス殿下、あなたが約束してくれたから。
たとえ魔法が使えなくても、S級冒険者になってくれるって。
「だから……。私だって、アレス殿下と一緒にいる未来を諦めたりしない。諦めたくない!」
その答えに、父が笑った。
そして、私に背を向ける。
「分かった。今から、殿下と会ってくるから」
「お父様……?」
「俺にすら勝てない人間には、ルルを渡したりしないって決めているからね」
「え?」
止める間もなく、父は窓を開けてそこから飛び降りてしまう。
S級冒険者の身のこなしに、追いつくことができない私は、まだまだA級冒険者を卒業できそうにない。
「その腕輪、渡しておくけど、俺か殿下がここに戻るまで身に着けるのは保留しておいて? ちなみに、もし殿下に勝ってほしいなら俺のこと追いかけるなよ? 殿下が魔法を使えなくなったら、万に一つも殿下に勝ち目はないのだから」
父の声が遠くから聞こえてくるけれど、それに返事をする前に父は消えてしまった。
呆然と腕輪を握りしめるだけの、私を一人残して。
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