27 どうして私を優先するんですか。
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目を開けると、ベッドの上にいた。
「ルル……」
アレス殿下が、心配そうに私のことを覗き込んでいる。
「私……」
「まだ無理しない方が良い。魔力が枯渇したんだ。俺と初めて手合わせしたときと同じように」
そこまで聞いて初めて、私はヒロインの姿を見たとたんに魔力が大量に流れだす感覚がしたことを思い出した。
「――――原因は、クラスメイトのアイシラ・クリスタルだね?」
「……そうですね」
私が起きようとすると、アレス殿下が背中に手を添えて手伝ってくれる。
話すなら、今しかないだろう。
「――――アレス殿下。すべてを話したいです。最後まで聞いてもらえますか?」
「ああ……どんなことでも受け入れるよ」
「私には、前世の記憶があるんです。そして、その時に読んだ小説にこの世界は酷似している」
「そう。続けて」
アレス殿下は、否定しなかった。
真剣な目を向けて、震える私の手を握りしめてくれた。
さすがに、本人を前に小説の中のアレス殿下の最後を話すときには、ひどい震えと吐き気がした。
それでも私は最後まですべてを話しきった。
「……以上です」
「そう……話してくれてありがとう。だから、ルルは最初に俺から離れようとしていたんだね」
「全部信じる気ですか」
「むしろ、納得がいったよ。それに、その時の俺が、ルルを守ろうとしていたことも間違いない。ただ……きっとその時の俺が一人で抱え込んで、方法を間違えてしまっただけで」
アレス殿下は、優しく私に微笑みかけた。
「それに、ルルのことは、無条件に全部信じたいんだ」
「……ずるいです」
もう、頬が赤く染まるのを隠すことすらできなくて、慌てて私は思わず俯いた。
小説の中のアレス殿下は、完璧でほんの少し傲慢な王子として描かれていたけれど、今にして思えば、婚約者のルルーシアを守るために、そのように振る舞っていたのだろう。
だって、出会った時からアレス殿下は優しい人だったから。
そして、私は一目見た瞬間から強く惹かれてしまった。
というより、小説の中のアレス殿下は私の唯一の推しだった。アレス殿下が、非業の死を迎えた回を読んでしまった日からしばらく、ご飯が喉を通らなくなったくらい。
そして、アレス殿下と過ごした日々は、小説を読んだ記憶としてではなく、不思議なことに現実のこととして私の記憶の中に存在している。
「――――今度こそ、守らせて。ルルーシア」
「……ダメですよアレス殿下」
「え?」
「そうやって、一人で私のことを守ろうとしたらダメです。今の私は戦えます。アレス殿下と一緒に」
その瞬間、アレス殿下の表情が歪んだ。
涙がその美しい海のような瞳から零れ落ちる。
それを見られたくないとでもいうように、アレス殿下が私を抱きしめる。
「そうだね……。俺は、ルルのそばにいると魔法が使えないから」
「はい。それに、私の方もアレス殿下のそばでは魔力の消費が異常に大きくなります」
だから私は、弓矢を媒介に魔法を放つしかできない。
それどころか、日に日にその制約は強くなっている。たぶん、今はもう、王都に共にいるだけで、私たちはお互いに魔法を使うことができない。
その理由は、たぶん私たちの魔力が強くなっているから。
――――ヒロインであるアイシラ様のそばでは、あっという間に魔力が底をついた。このまま、アイシラ様が聖女として覚醒すれば、たぶん私は。
「いつか、ルドルフ殿に渡していた腕輪……」
「お父様に?」
「ああ、あれはどんな魔力も跳ね返すことが出来る。冒険者になるときに、陛下が俺にくれた国宝級の魔道具だ」
その瞬間、私は思わずアレス殿下の体を押して離れてしまう。
「どうして……。どうして、アレス殿下は自分でその腕輪をしないんですか」
そうすれば、恐らくアレス殿下は、私の前でも魔法を使うことが出来るはずなのに。
小説の中では、冒険者になる展開がなかったから、その腕輪を手にすることは出来なかったのだとしても……。
「あの腕輪は、所有者が決まると、その人間が死ぬまでほかの人間が使用することができない」
「……え」
「……もしも、これから先、ルルーシアが俺に守られると、俺のことを庇おうとしないと約束してくれるなら。俺は喜んで腕輪をはめるよ」
「アレス殿下……」
たぶんその選択は私には出来ない。
そして、近くに闇魔法の使い手がいないアレス殿下と違って、ヒロインがいる限り私の魔力は失われ続ける。
「あれ、でもどうして小説の中のアイシラ様は私のそばでも魔法が使えたんだろう」
「聖女は……闇を打ち消す存在だと、文献には書いてあったな」
「そう……ですか」
聖女……。物語はいつもヒロインに都合がいいようにできているようだ。
この世界で、闇魔法を持つ私は打ち消される側の存在なのだろう。
たしかに、小説の中で悪役令嬢ルルーシアは闇の精霊と契約していたけれど、それは下級精霊で戦う力は持たない、ただの令嬢だった。
それは、ヒロインの存在が大きかったのだと、今ならわかる。
「わかりました。帰ったらすぐに腕輪をはめます」
さすがに、アレス殿下と一緒にいる時には大規模な魔法を使うことは出来ないだろう。アレス殿下に大きな影響が出てしまうだろうから。
そして、この後おそらくアレス殿下が契約する光の精霊……。そして、アレス殿下やヒロインの前では力を発揮できない闇の精霊フェイ。
この問題を解決しない限り、私たちの戦力を大幅に増強することは叶わない。
それでも、私はアレス殿下のそばで一緒に戦う道を選ぶ。
その先にどんな結末が待つのだとしても、もう一人でアレス殿下を戦わせることだけはしないと誓う。
「ルル……」
「その代り、アレス殿下は私に守られるんですからね?」
「うぐっ……。それはあまりにも情けないな」
今度は必ず守って見せる。
でも、私だって一人で戦ったりしない。
それでは、小説の中の私たちと同じになってしまうから。
「うそです……。何があっても、アレス殿下が私のことを守ってくれるって信じていますから。それに、お父様もカトルもきっと一緒に戦ってくれます」
「ルル……。ああ、必ず守ると誓うよ」
「だから……。私にもアレス殿下のこと守らせてください」
まだ、これが愛なのか、私にはわからない。
それでも、涙にぬれているアレス殿下の頬に落とす口づけは、今の精いっぱいの私からの気持ちだった。
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