23 どちらが本当の姿ですか?
ところで、さっきから気になり続けていることがある。殿下が現れる直前まで、そばにいたフェイが居なくなってしまったのだ。
その代りに、同じ気配のまま、少し離れた場所からこちらを見つめている人がいる。こんな、闇の気配を纏った人間がいるなんて考え難い。
「――――フェイなの」
「……だから、光魔法の使い手のそばに寄るのは嫌なんだ」
そこにいる人は、闇夜のような長い黒髪を、後ろで結んだ人だった。その瞳もどこまでも続く深淵みたいだった。
そして、その言葉を肯定なのだと私は捉えた。
――――うん、精霊は美男子の法則!
アレス殿下は、まだ幼さが残りカッコいいというよりも可愛らしい。でも、ここに立っている大人な男性は、十人中十人が振り返るくらいの美男子だ。
少しだけ気怠げで、全身から漂う暗い雰囲気。
まるで、暗い闇夜に雲の隙間からほんの少し顔を出した月みたいだ。
その姿を見た人間全てを虜にしてしまいそう。
でも、この瞬間、私の頭の中を急速に占領していくのは、そんな事実なんかじゃない。
侍女のローリエに甘えながら、おやつをねだる姿。
私の帰りを自堕落な体勢でソファーで待つ姿。
そして、お腹を出して私にもふられる姿。
確実に同じ存在なのは理解できるのに、脳裏に浮かぶ映像がそれを許さない。
「……偉大な姿を維持できないなんて」
私の感覚の方がおかしいのだろうか。たぶん、今の姿の方が明らかに偉大な精霊様という印象なのだが。
「あの、それが元の姿なのですか?」
「そうかもしれないし、そうでもないかもしれない」
なんだか、哲学的なことを言い出すフェイと首を傾げるばかりの私。
その私の手を、殿下が掴んで自分の方に引き寄せる。
「闇の精霊様……。申し訳ないのですが、ルルの近くにいる時はしばらくその姿になりますよ」
「えぇ? その言葉が意味することを理解するのが怖いな」
なぜか、意味不明な殿下の言葉を理解しているらしい父と、顔をしかめるフェイ。
今回も理解できていないのは私だけらしい。
「S級冒険者殿がフェンリル退治に行く間、保護者のいないルルは王宮で預かりますので」
「――――へ?!」
王宮なんて、できる限り避けていたのに。
わがまま言って、王妃教育も家庭教師を派遣してもらっていたのに?!
私は平穏な生活が音を立てて崩れるのを感じた。
そして、小説の悪役令嬢ルルーシアの生活に、どうしても足を突っ込んでしまう物語の強制力としか言えない事態を憎むのだった。
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