21 もう一度言ってもらえませんか?
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夢の中で、私はアレス殿下を追いかけていた。
「どうしてですか? 私に至らないところがあったなら……」
「一緒にいることができない。それは理由にならないかな?」
「やっぱり彼女の存在のせいですか」
「彼女は関係がない。これは俺自身の問題だ」
その美しい青い瞳は振り返ったきり、もう私のことを見ることはなかった。
そのあと、私の運命は急な坂道を下るみたいに転落してしまった。
どうしたんだろう。小説の中の情報は、悪役令嬢ルルーシアのことだってわかっていても、あくまで知識として持っていただけなのに。
視界がはっきりしたとたん、勢いよく流れ込んでいた情報が静かに私の記憶として定着していくのがわかった。
目の前で、私を抱きしめたまま心配そうに見つめているのは、あの日、私に婚約破棄を告げたはずのアレス殿下だった。いや、あの時よりもずいぶんと幼い姿で、どこにも傷がないアレス殿下がここにいる。
私はほっとして、でも悲しくて、そして今までのふがいない自分にいら立って、ごちゃまぜの感情のまま殿下にしがみついた。
そんな私の様子を、静かに見つめながら殿下がそっと私を抱きしめ返す。
「大丈夫だから。ルル……」
きっとアレス殿下は、わかっていない。自分が私のせいでどんな目に合うのか。
――――ううん。優秀な殿下は、いつも未来を見つめている。そうなる可能性を知っていて、それでも私のことを助けようとしてくれているのだろう。
光魔法のことも、闇魔法のことも調べつくして。シーク先生にも教えを請いながら。
そう考えると、あの学園初日に読んでいた『魔界の王と天上の女神が織りなす魔法』というタイトルの本も、それ関係の本だったのだろう。妙に納得がいく。
「知っていてずっと守っていてくれたんですね。アレス殿下は」
「何のこと?」
「光魔法と闇魔法についてです」
「ああ……知ってしまったんだ。それで、ルルは俺のそばから離れてしまう気なの?」
殿下はいつのまにか、僕とは言わなくなっていた。
そのことを少し寂しく思いながら、そしてあの未来に近づいていることを現実のこととして感じながら、それでも私は緩く首を振った。
「せっかくなので、運命と戦ってみたいです」
悪役令嬢に私はならない。第一王子の婚約者でいることを継続できるのかはわからないにしても、あんなふうに殿下を一人で戦わせるのだけは嫌だから。
「そう……。じゃあ今のうちに言っておこうかな?」
「なんですか? アレス殿下」
「好きだよ。ルル」
「――――え?」
もう一回言ってくれないと、聞き逃してしまった気がする。
大事なことだと思うのに、本当にそう言われたのか自信が持てないのですが?
その瞬間、誰かに私たちは引き離される。
「――――邪魔しないでいただけますか?」
「王宮を抜け出してなにしてるんですか」
「王宮って何のことでしょう? いくらS級冒険者でも、人の逢瀬を邪魔するのはいただけません。ああ、申し遅れました。俺はB級冒険者のアレスと申します。すぐにS級に上がる予定ですので、以後お見知りおきを」
「――――また、知りたくない事実を知ってしまった……。それより十歳でB級ってなんだよ……。しかも執務を学びながら授業にも出てるって聞いたぞ? 最近ルルのところに来る回数が妙に少なくなって気持ち悪いと思っていたらこれか」
――――父、冒険者の言葉遣いになってますよ?
それにしても、S級冒険者は苦労が絶えないみたいだ……。
それに殿下はどうやって城を抜け出して、B級まで上り詰めたのだろう?
このままでは、未来に3人のS級冒険者が存在することになりそうだ。
未来のS級冒険者に一番近い男カトル、ぜひ殿下に負けずに頑張ってほしい。
私はまだまだ続いている大人げない父と子どもらしくない殿下、二人のやり取りを見つめながら、とりとめなくそんなことを思うのだった。
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