11 光と闇魔法
私の方を気の毒そうに見たシーク先生の視線が、本当は何を意味するのか、私にはわからない。それでも、私の断罪ルートに関係するのではないかと、私の勘が言っている。
それに、好奇心から質問しているにしては、なぜかアレス殿下に悲壮感が漂っている気がする。
「……それについては、共存は不可能だという意見が一般的だ」
「でも、シーク先生は、全属性を持っていると仰いました。それなら……」
「全属性あるが、光と闇の両方の魔力を持つが故に、私は光と闇魔法については両方とも使うことができない」
「それならやっぱり……不可能なのですか」
どうしてこんなにも、アレス殿下は光魔法と闇魔法の共存についてこだわっているのだろうか?
……研究テーマか何かなの?
それにしては、深刻さが際立ちすぎている気がする。なぜだろう、理由はわからないのに胸がザワザワうるさい。
「……だが、不可能でないと、私は思っている」
シーク先生が、口の端を上げてアレス殿下にそう告げた瞬間、俯いていた殿下が勢いよく顔を上げた。
……そういえば、私は闇魔法を使う。アレス殿下は、何魔法を使うのだったかしら? その様子を眺めながら、ふと私は疑問に思った。
どうしてだろう。小説についての記憶はあるのに、アレス殿下に関することだけが、虫食いのように所々抜け落ちているのは?
思い出せるのは、アレス殿下と私が婚約破棄することと、殿下とヒロインは結ばれないことだけ。
そこに至る経緯は、なぜか思い出すことが出来なかった。
私に関することなのに、役に立たない記憶だわ?
「実際に、光魔法と闇魔法は共存可能なのだと、遠い昔に…………師匠から聞いたことがある」
長い沈黙。シーク先生が、悠久の時を生きるハイエルフであることを知っている私にとって、それは実際に経験したこのように思えた。
「本当に?」
「縋りたいほど願うなら、共に研究しよう?」
――――そのセリフって、シーク先生がヒロインにいうセリフだった気が?
そういえば、さっきのカトルとの熱い友情演出も、ヒロインとの出会いの場面に似ている気がする。
うん、何故かアレス殿下が、登場人物たちを攻略している気がしてならない。
しかし、次の瞬間振り返った満面の笑みの殿下に私も時を止める。
「僕、頑張って研究するから……。ずっと一緒にいようね? ルルーシア」
なんで、殿下がそんなことを言うのかわからないのに、なぜだか泣きたくなってしまった。
その願いが叶ったらいいな。でも、私たちは婚約破棄するのに。それに、あの時もそう言ってくれていたのに、私たちは……。
んんっ? ……私たちは、って何だろう?
その理由は、そんな風に相反する気持ちに気がついてしまったからなのだろうか。それとも、私の記憶の奥底、私でさえ見えない深海のような暗い場所で、揺らめく何かのせいなのか。
もしかして、こうやって小説の中の悪役令嬢ルルーシアは攻略されてしまったのかもしれない。未来を思って私は、絆されないぞと心に決めた。
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