972:副支店長との事
副支店長、支店長ともにリタイヤです。
引き続き忘年会。副支店長がお隣に来た。
「ここ、良いかね?」
「はい。副支店長なら大歓迎です」
「ありがとう。この間はお疲れ様だったね」
副支店長は手酌でお酒を飲んでいた。こうやって自分のペースで酌を強要することも無く穏やかに喋りながら飲んでくれる。これこそが副支店長だよ。
「副支店長もあんな声出されるんですね」
「血気にはやってしまいました。人としてまだまだですね」
「あれくらいが丁度いいですよ」
副支店長はグイッと持っていたグラスを干して言った。
「定年が早まりそうでしてね」
「えっ?」
「年が明けたら謹慎との事でね。せっかくだからもうリタイヤしようかと思いまして」
「そんな!?」
「役員会に乱入したからには仕方ない処分ですよ」
それでも一緒に行った私と睦月さんには処分が下ってない。何故副支店長だけ……いや、副支店長だけだからなのか。睦月さんはあれでも内調のエージェントだからよっぽどの事をしない限りはクビがどうこうなる筈がない。というか処分なんかしたら官房長官辺りに呼び出されて説明しなくちゃいけなくなるのかもしれない。いや、内調の事よく知らんけど。
一方、私の方はというと……個人的にはしがらみとかないと思う。だけど、内調の監視のターゲットが私な訳だ。そして自分で言うのもなんだけど今は「鎖に繋がれてる」状態。仕事辞めてヤケになったら甚大な被害が出るかもと考えられてもおかしくは無い。まあヤケになったら何するかわからんけど私の自制心は強いからそんなに心配しなくても暴れたりは……えっ? ママに手を出したら? 滅ぼすよ、相手が神だろうと悪魔だろうと!
つまり銀行側としては処分が下せるのは副支店長だけということだ。なんてこったい。
「良いんですよ。元々辞めたら妻とのんびりしようと思ってましたからね。少し早まるだけです」
副支店長の腹は決まってるらしい。
「それでですね、心残りは熊井建設の事なんですが」
「大丈夫です。ちゃんと再建まで漕ぎ着けたんですから何とかしますよ」
「よろしくお願いしますよ。あ、そうそう、支店長お辞めになるそうですよ」
あー、そうなんだ……えっ? ええーっ! そ、そういえばいつもはうるさく説教する人が居ないわ。支店長も具合が悪いのかなとか思ってた。ほら、インフルとか?
「建設会社との癒着が発覚して、その他にも露骨に優遇とかしてたらしくてね。私としてもそれは知ってたんだが止められなくてね。だから私の退職も仕方ない事なんだよ」
あー、つまり支店長が辞めるから連帯責任的なもので副支店長も辞める理由が出来たと?
「私が居なくなっても支店長が代われば後任に良い人が来てくれるでしょう。その方が霜月さんたちにはやりやすいでしょう」
いや、まあ、ダメならダメだった時で別に今の支店長でもよかったっちゃあよかったんですけど。それでも物分りは悪かった人だからありがたいのは確かだ。リスケとかも結局は支店長のサインが要るしね。
それからしばらくは他愛もない話を副支店長とした。これからはちょくちょく高宮さんのお家に遊びに行くそうだ。ひなたぼっこしてる副支店長と猫。軽く想像しただけでも絵になるなあ。
二次会はカラオケって事で私は離脱。萌ちゃんは行くみたい。お持ち帰りされんなよ。まあ座敷わらし様が要るから大丈夫か。先輩は「豊さんが待ってるから」って、睦月さんは「野暮用で」それぞれ帰宅。いや、カラオケは気のおけない人たちと行くべきよね。だいたいアニソンメドレーなんだけど。




