967:八百八狸
襲い来る刺客!()
私は窓から飛び出した。後ろの方で会話が聞こえる。
「ここから飛び降りるとは……睦月さん、彼女が?」
「まあそこは機密事項とだけ言っておきます」
睦月さん、それ、答え言っちゃってる様なものなんだけど……今はそれどころじゃねえ。火の精霊さん、認識阻害マックス! 風の精霊さん、私の身体を運んで!
直線距離で進むとかなり短縮出来る。三十分くらいで着いた。正面玄関からスタスタ入る。
「こんにちは」
「その制服は銀行の……何かありましたか?」
受付のお姉ちゃんが声を掛けてくれる。なかなか可愛いですね。一緒にお茶でもどうですか?とか雑念が入る。綺麗なお姉さんは好きですか? 私は好きです。綺礼な黒幕は好きですか? くたばれば良いと思います。紀霊な将軍は好きですか? 袁術配下じゃなければねえ。
「あ、はい。実は当行で融資の検討をしている際に足りない資料がありまして提供をしていただけないかと」
「そうですか? ではこちらでお待ちください」
「いえ、待ってるのもタルいんで勝手に探して持っていきます」
キョトンとする受付のお姉ちゃん。そんな顔も良いですね。ちょっとほっこりしました。そうこうしてると男性社員とかお偉いさんとかも出て来て……
「何をやってるんだね?」
「書類を取りに」
「なんの書類だね? だいたいお宅の支店長とは既に話が着いてるんだ。書類を出せとは言われてもおらんが?」
「あなたでいいや」
「は?」
「書類の場所に案内してもらうよ」
私はそいつを掴むとズルズルと引きずって行った。周りのヤツが慌てて抑えようとするが、そうは問屋が卸さない。見えない空気の壁に阻まれるのだよ。
エレベーターに辿り着く。
「何階?」
「何の話だ?」
「あんたらが二十年前に熊井建設に悪さしてた頃の資料」
「そっ、そんなものが残っている訳が……」
「いや、あるね。あんたらみたいな悪党は裏切られないようにそういう悪事の記録は廃棄しない。そうだろう?」
「……わかった。五十九階だ」
「いや、十階建てのビルだろうが!どこのドルアーガだよ!」
「九階だ」
おっけー。これで嘘だったら手間はかかるけどそっちに行けばラスボスがいるかもしれないしね。トラップ……は現代社会だと致死性のとかは無理だもんね。
「たのもー」
ばんっと扉を開ける。……ちょっと気持ちいい。すると中にはでっぷり太ったオッサンが椅子をきしませて座っていた。
「誰ですか?」
「銀行のものです。二十年前の熊井建設の資料をいただきに来ました」
「そんなものは無い」
そう言いつつ落葉を拾ってこっちに投げた。落葉がナイフに変わった!?
咄嗟のことで上手く反応出来なかったな。自分の身体を硬質化して弾いた。一体なんなんだ。葉っぱをナイフに変えるなんて芸当、なかなか出来るもんじゃない。
「それよりもあんた、普通の人間じゃないね?」
「ふふふ、八百八狸が一つ、葉刃狸とは俺の事よ!」
「やけにあっさりバラすのね」
「もう分かってたんだろう?」
「いや、今初めて知ったけど」
沈黙が場を支配した。いや、だって、適当に書類を探して持ってくれば終わりだと思ってたのにまさかとか思うじゃない?
「バレてしまっては仕方ない。生かして帰さん!」
「バラしたのはそっちじゃない」
こうして決戦の火蓋は切って落とされたのだった。




