964:常務無情
上から読んでも下から読んでも「じょうむむじょう」(漢字をね)
「だいたい、支店のことならば支店長からというのが行内ルールでしょう。何故あなた方がここに来る必要があるのですか?」
「支店長は所用でこられませんので我々が代理です」
「だから、そんなものは認めてないと言ってるでしょう。ルールをまげないでもらいたい」
どうやら本当に話し合いにはならなそうだ。でもリスケを呑まさないと。熊井建設のこれからがかかってんだから。
「話すら聞く必要がないと?」
「話は聞いてあげても構いませんが、役員会を通るかというのはまた別の話です」
「じゃあ通るかどうか役員会にかけてもらえませんか?」
「このような瑣末な案件で役員会を招集する事は有り得ません」
私たちの睨み合いというか怒鳴り合いにまで発展してた事を聞きつけて警備員が駆けつけてきた。
「何事ですか?」
「ああ、君たち。こいつらをつまみ出しなさい」
「話はまだ終わってませんよ?」
「仕事の邪魔です」
「大して仕事してないでしょうが!」
「貴様ら……」
警備員さん達はオロオロしている。まあそうだよね。そもそも私たちテラー二人は銀行の制服着てんだもん。支店から直接来たからテラー服のままなんだよ。だからつまみ出せと言われても行員だもん。そのまま外に出されたら何事かと奇異の目で見られる事請け合いだ。
「何の騒ぎだね?」
「あ、常務」
どうやらお偉いさんまで来てしまったようだ。こりゃ潮時かな?
「黄金沢、久しぶりだな」
副支店長が親しげに常務に話し掛けた。あれ? お知り合い?
「お前……大人しく副支店長やってると思ってたが」
「お前と違って出世には興味なかったからなあ。そろそろ定年だがな」
「で、今更ここに何の用だ?」
「取引先のリスケをな」
「うちはリスケはやらんのは知っているだろう」
「だがな、あの熊井建設なんだよ」
「……私には関係ない」
おや? この常務さん、もしかしてあの文吾さんとお知り合いなのかな?
「二十年前の精算をしろとは言わん。だが、立ち直るきっかけを与えてくれてもいいんじゃないか?」
「関係ないと言っているだろう!」
常務が声を荒らげた。しかし、直ぐにしまったという顔をした。揺さぶれば落ちるかも?
「頼むよ、黄金沢」
副支店長が頭を下げた。この人はなんの躊躇もなく、客の為にこういう事ができる人だ。
「リスケをせんという行内方針を一存で変えることは出来ん。役員会にはかけてやろう」
「本当か?」
「ただし……お前はうちを直ぐに辞めろ」
えっ? 副支店長を辞めさせる?
「本来ならあと少し残ってるだろうが、その残り少ない進退をかけるというなら役員会で検討してやろう」
進退かけさせるのに検討だけ? こういう時って「検討したけどダメでした」とかなりそうだよね。
取引先を煽って「稟議が通りませんでした」みたいな事をする営業もいるとか聞いた事はある。融資をエサに定期を獲得して、獲得した定期を評価割れした担保に組み込む。そんな話を副支店長から聞いた事がある。
「お前は変わらんなあ。だが、可能性があるならかけてやろう。私の進退で構わない。それで頼む」
「ならば望み通りにしてやろう。ちょうどこの後に役員会だ。そのまま待っているがいい」
と、私たちは応接室で待たされる事になった。ん? そういえば一緒に来たはずの睦月さんはどこに?




