760:師走一家
ガブリエルもすっかりとけこんだようで。
それから数日のんびりしている。ハルはどういう訳か何にもして来ない。いささか拍子抜けといったところだ。いや、警戒していた様に聞こえるが、今までのことを考えると不思議な感じで、何やら学生時代に戻ったかのような気分になった。もっとも、あの頃はハルは既にトレードやってたから、あの頃より今の方がのんびりしているんだけど。
「さて、ちょっと早いけど師走さん家行こうかー」
「は? 良いの?」
「んー、まあひとみんが気になってる事をそのままにしてもうわの空だろうしー、この先長いんだからのんびり行こうかなーって」
ううっ、確かに師走さん家の事は気になってる。教団を潰さないとおちおち安眠も出来ない。いや、私がじゃなくて師走さん家がね。
「もーしわけないって思うならチューしてー」
まあチューくらいならいいか。どうせ学生時代は毎日の様に……いや、毎日では無かったな。ほっぺチューくらいは日常のスキンシップだ。
私は歩を進めてハルのほっぺに唇を近づけて……と、ハルが私の唇にかぶりついて来た。キスなのにおかしいって思われるかもしれないけど、その表現が一番しっくりくる状態だったんだ。
「んーんー!」
ちょっと、苦しい、苦しいって!
「ぷはぁ、ごちそうさまー!」
「死ぬかと思ったわ!」
「えー? キスじゃあ死なないしー、そう簡単に私たちが死ぬわけないでしょー」
まあ、ハルは呼吸しなくても吸血鬼だから大丈夫みたいだし、私も、なんか皮膚で呼吸出来るけど。……こう言うと私、植物みたいよね。
「もう、今回は私が急かしたから今のはノーカンにしとくよ」
「えー? 別にノーカンにしなくても心に刻み付けといてくれたらいーよー」
「その場合、私のハルに対する印象は確実にケダモノになるけど良いの?」
「ノーカンでお願いしますー」
実際にケダモノかもしれないけどハルは大事な友達だ。そう、友達なのだ。大事な友達。最近なんか揺らいでるかもしれないけど、私のスタンスとしてはハルは唯一無二の友達なのだ。勝率八十五%以上、G1七勝以上、ファン三十二万以上……いや、その唯一無二じゃない。何を言ってるんだ、私は? でもハルの唇は割と柔らかかっ……
「ひとみん?」
「あ、うん、どした?」
「あー、いや。なんかうわの空っぽかったからさー。ほら、今から師走さん家だし、教団の事はその後考えよーよ」
別に教団の事とか頭から吹っ飛んでたんだけどそうだね!アパートに着いてドアを開けると悟さんが今日香ちゃんを押し倒して居た。
「お邪魔しました」
「違うんです! ちょっと待ってください!」
「あー、お幸せにー?」
「ありがとうございます、ハルさん」
「お願いですから話を聞いてください!」
とまあ話を聞くとガブリエル……真那さんが帰って来ないので探しに行こうとしたんだとか。また行方不明になるのは嫌だもんね。そこを悟さんが「僕が探して来るから!」って押し倒したんだって。
「お兄ちゃんったら強引で……」
「違うよ? 違わないけど何か違うよ?!」
まあ中身がガブリエルだから多分そんじょそこらの奴には相手にならんと思うけどというか単純に迷ってるだけなのでは? 方向音痴っぽかったもんなあ。
「ただいまー」
明日香ちゃんが帰って来た。真那さんを伴って。
「お母さん!?」
「あのね、どこだか分からないところに出たから迷ってたんだけど明日香が見つけてくれてね」
「お母さん、郵便ポストに道聞いてたんだよ。さすがに声掛けるの恥ずかしかったけど、ほっとく訳にもいかないし」
……まあこれで師走一家が揃った訳だ。さあ、お引越ししようか!




