756:香子ちゃんの気持ち
胸の中に不安を抱え込むのは辛いのです。
まあ来てしまったものは仕方ない。こいつらに私と香子ちゃんの愛の結晶を食わせるのは残念だが沢山作ったし、少しくらいなら分けてやるか。
「いただきますえ」
「いただきまーす」
「いただきます」
三姉妹がお行儀よく手を合わせた。箸が餃子に伸びる。
「なにこれ、美味しい!」
「へへん」
おおっ、香子ちゃんがドヤ顔を!? 許す。全て許してやる。そっかあ、クラスメイトにはこんなドヤ顔するんだなあ。
「珍しく香子がご機嫌で気持ち悪いんだけど」
「だってこれは私とひとみさんの共同作業ですもん」
嬉しそうに照れる香子ちゃん。ゆらりと立ち上がるハル。ハル?
「香子ちゃん? 今のは一体どういう意味なのかなー?」
「どういう意味も何も、そのままの、私とひとみさんの絆ですよ?」
「私だって、ひとみんときょーどーさぎょーでぎょーざ作りたい!」
いや、それは謹んでお断りするわ。餃子作るのに不確定名、うごめくものを作る訳にはいかないからね!
「ほーら、ひとみさん、嫌だって。これは私だけの特権、娘と母の愛なんですよ」
「ぐぬぬー、そ、そうよねー、香子ちゃんは「娘」だもんねー。それなら仕方ないよねー」
「はい。血の繋がりはありませんけどそれ以上に深く繋がった母娘ですよ」
今日の香子ちゃんはどうした!? なんでそんなにハルにつっかかってんの!?
「まあでも? 今私と二人で暮らしてるからねー。どうなってもおかしくないよねー」
「なんでハルさんがひとみさんと一緒に暮らさないといけないんですか!」
「だってそれが交換条件だしー?」
「ふん。つまりお金をタテにとってひとみさんを縛り付けた訳ですね」
「なんとでも言うが良いさー」
なんかドンドン空気が悪くなっている。周りを見てみるとルーちゃんはゆうと餃子の取り合いしてるし、あさひ……玉藻前とまひるは優雅に箸を進めている。ロニさんは……なんかケタケタ笑ってるんだけど。
「ちょっとロニさん、笑ってないで止めてくださいよ」
「なんじゃ? 二人の鞘当を邪魔するなど野暮というものじゃろうが。止めたければお主自身でやれば良い」
仕方ない。私が止めますか。ちょっと二人とも、せっかくの食事なんだから騒いでないで食べなさ……
「ひとみんはどっちの味方なのー?」
「そうです。ひとみさんは私の味方ですよね?」
義娘と親友を選べと? いや、どっちも大事だし、そういう選び方をするものでもない。困ったもんだ。
「多分ですけど、香子ははしゃいでるだけですよ」
と、横合いからゆうが話し掛けて来た。
「体育の着替えの時もいつもと違ってウキウキしてましたから余程ひとみさんが来たのが嬉しかったんでしょう。それで日頃溜まってたいい子ちゃんの代償が爆発しちゃったんです」
「見とった方が楽しいんに」
「いえ、姉様。そんな事で後を引いたら学校で面倒な事になりますから」
なるほど。香子ちゃんは素直に言う事を聞く良い子だと思ったけど色々我慢してたんだな。ということは……
「香子ちゃん」
ぎゅっと香子ちゃんを抱き締めた。
「ひっ、ひとみさん!?」
「ごめんね。大丈夫。香子ちゃんを置いて居なくなったり、香子ちゃんを捨てたりなんかしないから」
「ひとみさん、私、私……うわぁーん!」
ポツリポツリと話してくれたのは私が不老不死で香子ちゃんが違うということ。そして最近はハルにかまけきりだったということだ。そっか、香子ちゃんは離れていくことに怯えてたんだ。だから取られないようにハルに牽制してたんだね。




