725:二人の時
予め言っておくと、この二人は幸せになります。ご安心ください。
おばちゃんの定食が運ばれてきた。見てくれから察したのかご飯はお粥。あとは消化に良さそうな野菜の煮物。たまごスープ。
「さあ、おあがりよ」
「いっただっきまーす!」
明日香ちゃんが勢い込んでかっこんだ。
「おいしい〜、ほら、お姉ちゃんも食べようよ!」
「あ、明日香……もう、仕方ないよね」
お姉ちゃんの方も一口食べるなり無言でスプーンを進めていた。よっぽどお腹が空いていたんだろう。
「今まで何食べてたの?」
「こないだまでコンビニのお弁当をお兄ちゃんがくれたんだけど、お兄ちゃんコンビニから居なくなっちゃったから……」
「あ、えーと、コンビニのバイトのお兄さんに親切な方が居て、私たちの為に廃棄が出るように多めに発注してくれてたらしいんです。でも、それがバレちゃったらしくてお兄さんはクビに……」
お姉ちゃんが補足説明をしてくれた。あー、でも、そのお兄さんは頑張ったんだよね、自分に出来ることで。……いや、どっか頼ろうよ、とは思ったけどそうなったらまず間違いなく施設行きだよねえ。
「そのお兄さんはどうしたのか知ってる?」
「あ、はい。別のバイト……引越し屋とかやるって言ってました。でも、お兄さん、あまり身体頑丈じゃなさそうだったのに」
つまり、お兄さんはこの二人を育てる為にバイトを? いや、それは考え過ぎかも。第一、引越し屋だからって給料が良いわけでは無いだろうし。
「それでなんでこんな生活してるのか、親はどうしたのか聞いてもいい?」
「ダメって言いたいところですけど、ご飯も食べさせてもらったし、明日香は懐いてるし、話すくらいなら」
そしてお姉ちゃんは話し始めた。
「私にはお父さんもお母さんもいました。いえ、多分今も生きてると思います。お母さんは私たちを置いて逃げ出してしまったんです」
お母さんが逃げ出した!? 子どもを置いて逃げるってなんて最低の母親……
「お父さんがお酒を飲んで暴れたんです。いつもお母さんを殴ってて、それに耐えかねてお母さんは「ごめんね」って書き置きを残して……」
「お父さんは?」
「お母さんが居なくなったあと、私を殴ってるところをたまたま近所の人が見てて通報されて……」
なるほど、収監中か。
「で、その時に施設にって話もあったんですけど、明日香と離れたくなかったし、お母さんが帰って来られなくなると思って」
そしてあのアパートで帰りを待ってるのか。なかなかハードな人生送ってるなあ。そういう事ならお母さんが帰ってくる迄待たせてあげたいところではある。例えもう帰って来なくても。
「今までは何とかやって来たんですけど、家賃だけはどうにもならなくて……」
ん? てことはまだそんなに日が経ってない?
「はい。妹と二人だけで暮らし始めて三ヶ月です」
あれ? でも滞納はもっと前からじゃ……あっ、そうか。父親も母親も家賃払ってないのか! こりゃ帰って来ても家賃の回収は出来そうに無いよね。
「ごちそうさまでした。このご恩は一生忘れません」
「わすれません」
頭を下げたお姉ちゃんと明日香ちゃん。ん? お姉ちゃんの名前聞いてないな。なんて名前?
「私ですか? 師走今日香と言います」
「今日香ちゃんね」
名前からしたら一日五億くらいは稼げそうではあるけど。ハロウィン衣装着てみる?
その日はそのまま別れた。三井さんは終始渋い顔をしていた。よし、明日から私があの二人を何とかするよ!




