474:空を駆ける
楓ちゃんの試合までしばらくお待ちください。
長かった梅雨も明けて夏本番といった快晴の今日。気温は都市部でもないのに三十五度を越えた猛暑日となった。今年は先月に台風が一度も来なかった珍しい年となったが、これは私が魔力をあげた風の精霊さんたちが仕事に行くのに駄々をこねたからだ。関係者各位には深くお詫び申し上げます。
「ひとみさん、こっちこっち」
楓ちゃんが呼んでる。この度みんなで楓ちゃんが闘技大会に出るのを見学しようってことでギリシャへ。旅費? 今回は神様に連れてきて貰ったからタダです。
「しかしこの船、飛べるんですね。なんでもありですか?」
「まあ一度星座化してるからな。今回特別に引っ張り出したのだ」
「え? 良いんですか、そんなことして」
「外から勇者を迎え入れるのだ。儀式は必要だろう?」
私の質問に気軽に答えてくれるヘラクレスさん。今回の大会には出ないらしい。大会運営委員なんだと。
「えーと、着いてすぐ試合ですか?」
「いや、オープニングセレモニーがある。ゼウス様の挨拶があるな」
あのスケベジジイか。ジジイっていう見た目ではないけど外見なんていくらでも変えられるしね。雄牛とかにもなったらしいし。
「そろそろ着くぞ」
「あ、はーい。準備しますね」
「よろしく頼む。他の者たちは観戦席を用意している。ただし、澪殿とハイエルフ殿は別行動とさせてもらう」
ん? 私と澪ちゃん?
などと思っていたら眩く光る空間に出た。熱気が物凄い。なんかのコンサートみたいな。俺の歌を聞けーってそれはバサラ。
「レディースアーンドジェントルメン! 大変お待たせしました! この度の闘技大会のゲスト参加選手が今到着致しました。御登場いただきましょう。カエデ・ミナヅキ!」
ちゃんと姓変わってるのね。楓ちゃんは船から身を乗り出すと、そのまま眼下に飛び降りた。ちょっ、まだ高いよ!
ズシン、と音がして闘技場が凹んだ。楓ちゃんは無事みたいだね。いきなり飛び降りるかなあ。びっくりしたよ。
「事前に相談されてましたし、この程度の高さなら大丈夫と判断しましたので」
「あの、この程度って東京タワーくらいあったんだけど」
「たかが地上三百メーターちょっとですわ!」
十分高いわ! 私たちはそのままヌ船に乗ってて良いらしいから接舷?するまで乗ってました。会場に到着して私と澪ちゃん以外はみんな観客席へ。葵さんが引率でハル、ブランちゃん、晶龍君、ビショップさん、何故か居る琴葉さんと睦月さん。睦月さんはどうしても筋肉が観たいとこの世の終わりのような顔で詰め寄ってきたので押し切られたんだよ。で、たまたま来てた琴葉さんも後学のためと参加。まあヘラクレスさんが良いなら良いけど。
「お二人はこちらへ」
ヘラクレスさんに案内されてちょっと高い席に通される。そこには。
「ミオ!」
「えっと、ヘラお義母様?」
そう、ヘラさんが待ってて澪ちゃんを見るなり抱き締めてきたのだ。ぎゅむぎゅむ柔らかそうなおっぱいを押し付けていた。
「あの、ヘラ様」
「ヘラクレス、ご苦労。ひとみを主神の所へ」
「はっ」
あれ? 私はこっちが終点ではないようでした。主神って事はゼウスかあ。あのスケコマシの顔は見たくないんだけどなあ。
「ここです」
「あ、ありがとうございます、ヘラクレスさん」
「いえ。では私はここから入れませんので失礼致します」
ヘラクレスさんはそのまま退場。まあ大会運営委員のお仕事もあるだろうから引き留めるのもね。それにしても、ここから先に行かないといけないのか。ううっ、気が滅入る。




