6話 スキルの方向性
「とりあえず、ヒールが『ヒールプラス』になって……キュアで治せる状態異常の幅も広がったか。契約しただけで、今まで覚えたスキルが全体的にレベルアップしたわけだな」
「モグモグ……うん。特に意識したわけじゃないんですけど……モグモグ……ヒール使ったら、いつの間にかステータスが変わっていました! モグモグモグモグ」
「そりゃあ妾が契約しとるのじゃ! モグモグ……これからも異次元のレベルアップが見込めるぞよ。モグモグ」
精霊も飯食うんだ……。
アプサラスの滝を出てから、また四日かけて始まりの町へ戻ってきた。
契約に成功したことをマスターに話すと随分驚かれたが、それ以上に驚かれたのは、俺たちが普段からアプサラスを召喚して一緒に飯を食っていることだった。
別に精霊は食事をする必要がないらしい。
だがミヤビに言わせれば、一人だけ食べさせないのは可哀想なんだそうだ。
おかげでマスターや他の古参冒険者からは「迦楼羅がハーレムを作り出した」と散々からかわれたが、こっちは一緒になって笑えるほどの余裕がない。
アプサラスは水属性に分類される精霊で、本来は攻撃魔法を得意としており、メイジとの相性がいいらしい。
今回の契約によってミヤビの回復魔法も一段階強化され、これまで覚えたスキルの上限も引き上げられた。とはいえ、アプサラス本来の力を充分に活かしているとは言い難い。
それでも俺は、ミヤビが何者かを殺す姿を見たくなかった。
ただそれだけの理由で攻撃魔法は覚えさせず、あくまで回復魔法のみに特化する方向へ育てている。
「アプちゃん、このあと道具屋に行こうよ! 『これ、なんにつかうんですか?』って物、いっぱいあるんだよー♪」
「へー! 例えばどんなもの?」
「んー……岩とか?」
「岩?」
当のアプサラスに不満があるかといえば、そんな様子はまったくない。
ミヤビの異常な溺愛っぷりが気に入ったのか、アプサラスもすっかり馴染んでいる。ミヤビも初めて精霊と契約できたのが嬉しいのか、それとも単純にウマが合うのか、以前よりずっと楽しそうだった。
――岩を見に行って何が楽しいのかは知らんが。
◇
アプサラスと出会ってから半月ほど経った頃、俺たちは【冒険者の町】へ向かうことにした。
初心者の町から東の橋を渡って二日ほど。鬱蒼とした森を抜けた先にある、文字通り冒険者たちの町だ。
わざわざ場所を変える理由は二つある。
一つは、初心者の町では俺の顔が知られすぎていること。そしてもう一つは、なかなか俺と合う冒険者に出会えなかったことだ。
一人だった頃なら、その辺のモンスターを倒して熟練度を上げながら、初心者の中から使えそうな奴が現れるのを気長に待っていてもよかった。
だが今はミヤビがいる。
ヒーラーに特化させたコイツとの相性まで考えると、ただパーティになってくれる奴を探せばいいという話ではなくなった。
【冒険者の町】は、初心者の町とは成り立ちからして違う。
初心者の町が制作者によって最初から用意された場所なのに対して、こちらは冒険者たちが自分たちで作り上げた町だ。冒険を諦めたリタイア組が店や宿を営んでいるのは同じだが、仲間を失って新しいパーティを探している者や、再起を図るために一時的に滞在している現役の冒険者も多い。
だから仲間を探すなら、初心者の町より遥かに選択肢は多い。
ただし、俺はあまり好きじゃない。
店にも宿にも決められた値段なんてものがなく、物を買うにも泊まるにも基本は言い値。おまけに人付き合いまで値段に影響する。
以前、一人で訪れた時なんて、無愛想だったというだけで初心者の町と同じ酒を四倍の値段で飲まされた。
俺にはクソみてーな相性の町だ。
◇
「迦楼羅さんが言ってたイメージより全然、『町!』って感じじゃないですかっ!」
町に着くなり、ミヤビは物珍しそうに目を輝かせてはしゃぎ始めた。わざわざアプサラスまで呼び出し、二人で彼方此方を見て回っては黄色い声を上げている。
しばらく町の見学に付き合ったあと、俺たちは仲間探しのためにバーへ向かうことにした。
その途中、店先で何やら揉めている冒険者と宿屋の主人に出くわした。
「難癖つけるのもいい加減にしろ! 宿代がなぜ一晩五十万マニーなんだ! 以前来たときは一万だったぞ!」
「そりゃあ俺の息子次第なんだよ。息子が納得すれば一万より下がるときもある。お姉さん次第だ」
「ちっ……この下衆が」
この町じゃ、名の知れていない女性冒険者がこんな目に遭うのも珍しくない。
女のクラスは格好を見れば一目瞭然。【忍】――つまり、くノ一だ。
しかも髪はピンク色。顔立ちも悪くない。
まあ、下衆の息子さんが駄々をこねる気持ちが分からないでもない。
「迦楼羅さん? 助けなくていいんですか?」
「んあ? 助けたところでなぁ〜。これくらい一人で解決できないようじゃ、この先も生きていけねーからな」
「うわっ! 冷た! 冷凍人間だ」
「なんとでも言えいっ!」
それより俺は、あの女がどうやってこの状況を切り抜けるのか見てみたかった。
さすがに殺されそうになれば加勢するかもしれないが、俺たちは困っている女性を助けて回るためにここへ来たわけじゃない。目的はあくまで、ミヤビと相性のいい仲間を探すことだ。
なら、助けるより先に見ておきたい。
それにもう一つ、単純にサムライと忍では、それほど相性が良くないイメージがある。




