2話 エルフの少女
「おじさん、この世界長い人って聞いたけど……本当ですか?」
未成年はこのゲームには勿論参加できないが、エルフを選んだ女はやけに若く見えて俺の好みではない。
おそらく参加したばかりなのだろう。その小さなエルフの後ろでは、見覚えのある男二人組の冒険者がニヤニヤしながらこっちを見ていた。同じように初めて入ってきた女冒険者に声をかけ、ナンパでも失敗したから、からかい半分で俺を紹介したのだろう。
「長いっていっても一年ほどだ」
「えっと、私、入ってきたばかりでなにもわからなくって……仲間は四人までって言われたんですけど、結局みんな身体目当てで、しても仲間には何かしら理由をつけて入れてもらえなくて……」
「はあ? お前やったの?」
「すいません! そういうものなのかと思って……でも一週間、結局誰もパーティ組んでくれなくて、やらないって言ったら今度は話もあまり聞いてもらえなくて……」
こんなに頭が弱い女なら、誰もパーティには入れたがらないのも分かる。
ここは性欲も物欲も丸出しで生きている人間が多いが、パーティとなれば別だ。四人しかいない限られた枠を性欲で選んでしまえば、それだけ自分が死ぬ確率も上がる。そこだけは冒険者の間でも常識だった。
「エルフさん、クラスはなにを選んだ?」
「あっ、申し遅れました、ミヤビと言います。種族も可愛いかな? って思って選んだんですけど、あまり良い種族じゃなかったみたいで……だからクラスはまだ選んでないんです」
「はあ? それじゃパーティ以前の問題だぜ? いくらか一人で経験積まねーと、パーティなんて誰も入れてくれねーだろ? ちとステータス見せてみろ」
「あっ、はい。ステータス」
ミヤビの前に半透明のステータス画面が浮かび上がった。
覗いてみると空欄ばかりで、初心者というより設定すらなにも決めていないような状態だった。こりゃあ知らないのをいいことに身体を弄ばれるのも、分かると言えば分かる。
「あまりガキには興味ねえんだけどなあ……」
その言葉から、俺の頭に沙羅の声が流れ込んでくる。
『迦楼羅、アンタの鞘にアタシがなってやるよ』
「えっ……ちょっと……」
俺は黙ってミヤビの手を引き、ギルドの登録所へ連れていった。
◇
ギルドの登録所には、俺が一年前に来た時と同じように、種族やクラスについて書かれた案内が壁一面に並んでいた。
「お前さん、見た目でエルフを選んだって言ってたが、エルフが不人気なのは、なにしろ成長が遅いんだ。人間はエルフの約二倍、獣人は四倍の速さでエルフより成長するらしい」
「そうなんですか? 最初に聞いたら魔法に特化した種族だとも聞いて、夢があるなぁって思って決めたんですけど……」
「その魔法も強くするまでに時間がかかる。その間に死んじまう奴も多いし、身体の一部が欠損して冒険者を続けられなくなっても、最初からエルフはブローカーの職を選べねーんだ。しかも初期魔法以外の魔法を使うには、基本的に精霊との契約が必要になる。その精霊と契約する難易度が高すぎるから不人気なんだよ」
「えーーー! そーなんですか? じゃあ迦楼羅さんはそれがわかってて人間を選んだんですか?」
「俺は……俺のことはどうでもいい。とにかくミヤビはクラスを選ばねーとなにも始まらねーで、十年後に死刑になって終わっちまうぞ?」
「はわわわわ……どうしよー? どうしたらいいですか?」
とりあえず女性参加者に物理的な腕力は望めない。元々体力の低いエルフならなおさらだ。
しかし精霊との契約では、女性のほうが読解力や共感能力に補正がかかるらしく、それが上手くハマれば腕力の差など問題にならないほどの力を得られるとも聞いている。
ただ、そこまで辿り着いた成功例が少なすぎる。
「よし、メイジではなく、ヒーラーを選べ」
「ヒーラー? 回復とかするクラスですか?」
「そう、それもヒーラー特化型だ。契約する精霊もヒーラーとして特化できる精霊に限定する。一切攻撃の魔法を使わないヒーラーのエルフ。生き残るためにパーティから選ばれる存在になるには、それしか俺には考えられねえ」
「専門的なことが多すぎてよくわからないですけど、ヒーラーを選べばいいのですね? わかりました!」
「わからないって……あのな――」
説明しようとしたが、ミヤビはそう言うとさっさとギルドの受付へ行ってしまった。
「せっかちな女だ……」
◇
ミヤビはこの一週間、ゲスな男に抱かれることでチップとして得た金しか持ち合わせていなかった。
ここの通貨で約三千マニー。昼飯を食ったら半分はなくなる程度の金しかない。
仕方がないので、行きつけのバーで昼食を奢ることにした。
「私、実は親に売られるような感じでここにきたんですよ」
「重いな! 黙って食ってパーティでも探しにいけよ」
「まあ私も悪いんですけどね。学歴も中卒。モグモグ……三年間、家で毎日ゴロゴロしてたらイキナリ親がキレて……モグモグ……ゲームに参加させられちゃったんです。弟は優秀なんですけど私はどうも社会不適合者寄りでして……モグモグ」
「いや、食うか、喋るかどっちかにせい」
まあ宣伝文句が【五世代遊んで暮らせる宇宙一のドリームゲーム】って話だからな。
実際には死ぬし、身体だって欠損する。ここの時間軸で十年経てば、残酷な方法で死刑になる。そんな肝心な注意事項を知らされるのは参加する本人だけで、それもゲームへ入る直前だ。
親が知らないのは当然だ。
しかもヒーラーにしちまったし……この女じゃ、一人でまともにステ上げもできねえ。
「ほれっ、それ食ったら早速ステータス上げに行くぞ」
「えっ? 迦楼羅さんのパーティにしてくれるんですか? エッチなこともしてないのに?」
「ガキには興味ない」
「熟女好き?」
「そうじゃねーけど、ヒーラーだと一人でステ上げできねーだろ? 乗りかかった船だから、ある程度まで付き合ってやっから早く食べろ」
「ありがとーございますーー!!」
「おっ、おい……」
そう言うとミヤビは俺に抱きついてきた。
(こりゃ……世の男子は勘違いするわな……)
いつもならこんな初心者中の初心者、しかもエルフの女など相手にしない。
それでも沙羅のことが頭から離れなかった。
ミヤビを助けたところで、沙羅にしたことが消えるわけじゃない。それくらい分かっている。それでも、誰かの面倒を見ることで少しでも贖罪のようなことをしたい弱い自分がいる。
結局、ミヤビのためと言いながら、自分のためなのだ。
なにかをしていなければ紛らわせられない自分にイラつきながら、俺はミヤビを連れて初心者の町を出た。




