5話 迦楼羅パパ子育て中
◇
「なにー! 一か月後に戦争されても受けるだと?」
エリーは立ち上がり、声を張り上げた。
俺は返事をする前に、口に入っていた肉を飲み込んだ。
「ああ、それで行くだろ? 普通」
「いや、アタシは反対だよ。なんなら死刑間近な人順に頼むとかさ?」
「俺が逆の立場なら、死んだら死んだでもう一度よこせって言うぜ? 期限が来なくてもな」
「そりゃあ……」
他の連中も黙ったまま俺を見ていたが、俺はその間にパンをちぎって口へ運んだ。
「ところでリリー、二万人の死体はどうなった?」
「ああ、とりあえず埋葬もできる状態じゃないが、生きている者がなるべく形を残すようにして保管しているはずだよ」
「オーケー。リリーは魔王城に戻って、全モンスターを初心者の町へ招集してくれ」
「待て待て、いくら僕でも千人以上いるんだ。全モンスターは……」
「頼む、急いでほしい。速く来れるヤツから順でいい。みんな一緒じゃ遅いんだ」
「分かった……」
リリーは返事こそしたものの、明らかに納得していない顔をしていた。
「エリーとターシャは東にいる人間をできるだけ集めてくれ。マッソとミヤビは、ここに大人数を受け入れる準備だ」
全員が互いの顔を見た。
俺は残っていた飯を食いながら、次に必要な人数だけ頭の中で数えていた。
◇
二日後、俺の嫌いなガーゴイルを含む飛行タイプのモンスターが、五十体ほど初心者の町へ到着した。
「迦楼羅殿、いったいこれは……」
「あれ? リリーは?」
「まだ皆に呼び掛けていると思いますが、すぐに到着するかと」
「分かった。じゃあ、ここにいるヤツら全員、死体を食べられるだけ食べてくれ!」
「ええ!? いいんですか? リリー様の許可もありませんし……」
「人間側は俺がまとめる。幸い初期設定の店は復活しているし、調理が必要なヤツは持っていってくれ。設定の人間でも調理はしてくれるらしいから、腐って食えなくなる前にできるだけ頼む」
戸惑っていたモンスターたちも、大量の死体を前にすると少しずつ動き始めた。
「迦楼羅さん……私も?」
マリムが俺の袖を引っ張った。
「あのさ、マリム。一回元の姿に戻れるか?」
「う、うん……今?」
「ああ」
スライムは身体が小さく非力なこともあって、元の姿へ戻るのを嫌がるヤツも多い。人間がモンスタークラスを選ぶ時でさえ、わざわざスライムを選ぶヤツは少ないらしい。
ましてマリムはこの世界で生まれ、物心ついた頃から擬人化した姿で過ごしてきたのだろう。
それでも、一つ試してみたいことがあった。
マリムの身体がゆっくり崩れ、小さな半固形の塊へ変わっていく。
「おお……これがマリムの元の姿か」
透き通った桃色のスライムだった。半透明の身体に太陽の光が入り込み、動くたびに表面がキラキラと光っている。
俺はその小さな身体を抱え、なるべく形の残っている死体の上へ置いた。
「ちょっとステータスを出してみてくれ」
「うん」
横から覗いてみるが、やはり能力値はほとんど伸びておらず、スキルも一つとして持っていない。
「マリムさ、『捕食』って言ってみて」
「捕食」
「じゃあ……喰らう」
「喰らう!」
思いつく言葉を片っ端から試したが、マリムの身体にもステータスにも変化はなかった。
「んー……次は吸収だな。『吸収』って言ってみてくれ」
「【吸収】!」
マリムの身体が薄っすらと光った。
「おっ?」
桃色の光が死体へ広がり、その全身を包み込む。
すると、ほとんど数字がなかったステータスが一気に動き始めた。
「おいおいおい……マジか!」
死体が光の中で少しずつマリムへ取り込まれ、そのたびに能力値が上がっていく。さらに空っぽだったスキル欄へ、吸収した人間のスキルまで追加された。
「やった! 成功した! いい子だマリム! 早速、次を試そう!」
「う、うん!」
次の死体、その次と試しても【吸収】は止まらなかった。
回数制限らしいものは見当たらず、能力値の伸びは吸収した相手の強さで変わる。そのうえマリムだけは、他のモンスターと違って相手のスキルまで取り込めるらしい。
ただ、何体か吸収したところでスキル欄が埋まった。
「こっちはいらねえな……おっ、これは残そう。マリム、次こっち!」
「はーい!」
新しいスキルを入れるには古いものを捨てる必要があるらしく、そのたびに俺が選別して使えそうなものだけを残していく。
これ、完全に当たりスキルを探すゲームじゃねえか。
気づけばマリムより俺の方が夢中になっていた。
他のモンスターたちの食料まで奪うわけにはいかないので、マリムには損傷が酷く、このままではもう食べられなくなりそうな死体を優先して吸収させた。
そうして一日目を終える頃には、朝までほとんど何もなかったマリムのステータスは、まるで別人のものになっていた。
その日の夜、マリムは今まで見たことがないくらいよく喋った。
自分にもちゃんと強くなる方法があったことが余程嬉しかったのだろう。俺は酒のツマミ代わりにその話を聞き、最後には「一緒に寝たい」と言い出したので、そのまま宿屋で一晩一緒に寝ることになった。
◇
ポヨンッ。
翌朝、隣に誰か寝ている気配で目が覚めた。
「ん……エリー? ミヤビか?」
寝ぼけたまま振り返る。
「うわあああああっ!」
知らない女が寝ていた。
「あっ、おはようございます、迦楼羅さん」
「えっ……マリム?」
「はい?」
声は間違いなくマリムだった。
昨日まで幼い姿をしていたマリムが、一晩で立派な大人の女へ変貌していた。




