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レトロ殺人RPG【最終回 執筆済】  作者: 凛1129
三章 選民的世界
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2話 息子誕生

 ◇


 東西は、恐らくほぼ全ての場所を見て回った。


 【弁慶】や【ポセイドン】のような分かりやすい中ボスは東西に一匹ずつ。それ以外の町や城、設定モンスターの生息地もほぼ把握され、以前のように無秩序だった頃とは違い、少しずつこの世界にも秩序が広がっていた。


 今では多くのヤツが、限りある十年をどう生きるのか考えるようになっている。


 死刑前の【介錯】もそうだ。


 以前は介錯人が死刑になる者を直前に殺すだけだったが、今では前日に仲間たちと別れを惜しみ、最後はメイジに眠らせてもらってから、苦しまないよう静かに介錯する形へ変わっていった。


 残された身体も、本人が生前に了承していれば魔王城の者たちが受け入れる。


 このクソみたいな世界でも、死に方くらいは自分たちで選べるようになってきたということだ。


 しかし、俺たちのパーティは少し事情が違った。


 他の冒険者より遥かに多くの死線をくぐり抜けてきたせいで、東西にいる設定モンスターを相手にしても、ステータスも熟練度もほとんど上がらなくなっていた。


 自信をつけて南北へ旅立つ冒険者も現れ始めたが、相変わらず帰ってきたヤツは一人もいない。


「ハッ!!」


 四方から飛んでくる無数の触手を間一髪でかわす。


「【虐殺】!」


 身体能力が一気に跳ね上がり、周囲の景色が遅くなった。


 リリー――あれっ、どこだ?


 【虐殺】を使っても追えない?


「ほいっ! チェックメイト」


「なっ――」


 背中にとんでもない衝撃を食らった次の瞬間、身体が宙を舞い、魔王城から遥か離れた湖まで一気にすっ飛ばされた。


 強くなるための敵がいないのなら、作るしかない。


 そう考えた俺は、リリーに東側の【二重恩寵の泉】を飲んでもらった。


 元々俺と同じくらいだったリリーのステータスは、当然ながら一気に倍。モンスター種は人間を食べる以外では基本的にステータスそのものが成長しないため、今のところ【二重恩寵の泉】だけが確認されている例外だった。


 おかげで今のリリーは【虐殺】を使った俺でもまともに追えない。


 だが、ここまで来ると昔みたいな楽なステータス上げは通用しなかった。


 初心者だった頃なら、自分より遥かに強い設定モンスターを同じパーティの誰かが倒すだけでも、ステータスはかなり上がった。ターシャ商会でやっていたステータス上げも、それを利用したものだ。


 ただ、それで伸ばせるのはある程度までらしい。


 そこから先は、刀を振る、避ける、走る、攻撃を受ける、自分より速い相手を追う――実際に自分の身体で戦って熟練度を上げなければ、ステータスもほとんど動かなくなった。


 筋トレと同じようなものだ。


 初心者なら重いものを持っているだけでも身体は変わるが、鍛え続ければ同じことをやっていても伸びなくなる。今の俺たちは、東西にいる敵では負荷が足りなくなっている。


 だから倍になったリリーのステータスは確かに化け物じみているが、それだけで戦い方まで倍になるわけじゃない。


 逆に俺たちも、昔みたいに弱い冒険者を後ろへ連れて歩き、設定モンスターを代わりに殺してやるだけで、どこまでも強くしてやれるわけではない。


 楽して上がるところまでは上がる。

 その先へ行きたきゃ、自分で戦えってことらしい。

 クソゲーのくせに、そこだけ妙に真面目だ。


 ◇


「おたーたん!」


「おお! カルロ! 悪魔系なのに天使ちゃん♪」


「わあ〜可愛いー! ツンツンしていいですか?」


「ミヤビ、そーっとよ! まだ泣き虫ちゃんだから」


「いやー! こうして見ると赤ちゃんっていいね」


 湖から戻ると、息子のカルロが来ていたらしい。リリーの周りにエリーとミヤビまで集まり、三人で一か月前に生まれたばかりの赤ん坊を囲んでいる。


 カルロはリリーによく似た小さな羽を懸命に動かし、まだ危なっかしく宙に浮いていた。俺を見つけて飛んできたものの、途中で身体が傾き、慌ててリリーが抱き止める。


「どうした? お前らリリーと仲直りしたのか?」


「仲直り? 平等条約を結んだだけよ」


 エリーはそう言うと、一枚の紙切れを見せてきた。


「平等条約?」


「そっ! 海外では契約書は大事なのよぉ? 昔から一夫多妻は効率的には良かったのよ。今の私たちみたいに寿命が短いからね」


「はあ? でもカルロみてーに一か月後には生まれねーだろ?」


「そこはまだ不明だけど、ターシャさん曰く、生まれるのは早いらしいよ。数えてなかったみたいだけどね」


「そうだよぉ〜! だから迦楼羅さん、アタシとも結婚しよー!」


「いや、リリーとも俺、結婚はしてなく……いや、それはそれで俺はクズ男だな……」


「なにをいまさら〜」


 またいつものようにグダグダではあるが、少し気になった。


 忙しくて、人間の子孫繁栄なんて考えたこともなかった。だが思い返してみれば、山賊の村にも赤ん坊はいた。


 リリーだけを見れば、現実とは比べものにならないほど早くカルロを産み、生まれて一か月しか経っていないカルロは、もう母親に似た羽でプカプカと飛び始めている。


 俺はそれをモンスターだからだと思っていた。分裂して数を増やせるヤツまでいると聞いていたし、人間とは違うものだと勝手に決めつけていた。


 でも、人間も同じだったら?


 十年しか生きられないこの世界で、子どもだけは十倍の速さで成長するように作られていたら?


 俺たちは十年で死ぬ。


 けれど、俺たちが死んだら全部終わりというわけじゃないのかもしれない。


 カルロがリリーの腕から抜け出し、また羽を動かした。今度はさっきより少しだけ上手く飛べたのか、嬉しそうな声を上げながら俺たちの頭の上を一周する。


 この子が大きくなる頃、俺が生きている保証なんてどこにもない。それでも、もし俺がダメだったらコイツらがいる。その次もいる。


 いつか俺じゃない誰かが、このクソゲームを終わらせてくれるかもしれない。


「ちょっと、な〜にボーッとしてるんですか?」


「ん? ああ、どうした? ミヤビ」


「一夫多妻のことは難しくてわかんなかったけどぉ……」


「ああ、歴史の話な」


 ミヤビは飛んできたカルロを両手で受け止めると、まだ上手く畳めない小さな羽を指先でそっと直してやった。


「この世界でも、こんな幸せな空間が増えればいいな〜」


 風が吹き抜け、ミヤビの長い髪がふわりと持ち上がった。髪の隙間から覗く細長い耳に光が透け、カルロを抱いたまま笑っている横顔が、なぜか目を逸らせないほど綺麗に見えた。


 コイツ、こんな顔してたっけ?


 毎日一緒にいる。酔っ払うし、抱きつくし、くだらないことばかり言う。最初に会った頃なんて、男に騙されて金まで取られていたどうしようもない女だった。


 なのに今、目の前にいるミヤビは、俺がこの世界に来て初めて見る、本物のエルフみたいだった。


 まあ、エルフなんだけど。


 そんな馬鹿なことを考えている間にも、ミヤビは何も知らずにカルロへ笑いかけている。


 恐ろしいほど綺麗だった。


「……迦楼羅さん?」


「ん?」


「やっぱボーッとしてる」


「……ああ」


 なんで俺が照れてんだ。

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