1話 南地区の謎
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【ターシャ商会 無限平原支店 会議室】
東西連合が発足してから、会議室の壁を占領する巨大な地図には、初心者の町を中心として東西へ伸びる街道や町、城、森、湖まで、俺たちが把握した情報がびっしりと書き込まれていた。
最初はほとんど何もなかった地図も、東西だけならどこに何がいて、何が手に入り、どの道を通れば比較的安全なのかまで分かる。
それなのに南北には、未だ大きな空白が残っていた。
「マッソ、資料をもらえるか」
「ハッ! こちらです」
東地区の町や城で改めて聞き取りを行ったが、南へ向かった冒険者が帰ってきたという話は一つもなかった。
「僕も昔から偵察を出しているが、一人も戻っていない。やはり南は何も分からないままだ」
「ここまで調べても変わらねえか……」
俺がこの世界へ来た頃から、初心者は自然と東西へ流れていた。南北へ向かうヤツ自体が少ないうえ、行ったヤツは戻ってこない。
「妾は北の地域の一番南の森に住んでいたが、それでも初心者の町から辿り着くまでに死ぬ者は多かったからのう」
地図の中央から東西には道が伸び、その先には町も商会もある。
南北だけは、途中から線そのものが途切れていた。
「……」
「……」
さっきから、やけに静かなヤツが二人いる。
「おい、ミヤビとエリーはなんかないか?」
「……」
「……!!」
エリーが何かに気づいた途端、バンッ! と机を叩いて立ち上がった。
「リリー! その服装はどういう意味よ!」
「僕の服ぅ?」
「はっ! ニヤケ面! なんであんた妊婦服なんて着ているのよ!!」
「そりゃあ、おめでただからでチュよね〜、カルロく〜ん」
「えー!? やっぱそーなんですかー!? ずるーい」
「しかも名前決まっているし!! 迦楼羅!? どーいうことよ!!」
「いや〜、俺もモンスターの生態については……」
南北に向かった者が一人も帰ってこないという、どう考えても笑えない話をしていたはずなのだが、そこから先は会議どころではなくなった。
最後はいつものようにグダグダになったものの、決めることだけは決まった。
南へ踏み込む前に、まず東西に見落としがないことを確認する。
俺たちのパーティは東側、リリーたちは西側へ向かい、地図に残った僅かな空白を一つずつ潰していくことになった。
この世界に来て二年近く経って、ようやく東西を調べ尽くすための探索が始まった。
◇
西側を探索していたリリーが、かつて獣人の女が勝手に名付けたという【天賦開眼の泉】を見つけたのは、探索を始めて半月ほど経った頃だった。
「僕らの中にも前に見つけていた者はいたんだけどね。でも僕らは食べて強くなるのがほとんどだし、戦っても熟練度しか上がらないからね。ごめん、場所忘れてた」
その泉は、西地区の最北端にある山の麓から湧き出していた。
飲んでみると、ステータスのスキル欄に新しいスキルが追加される。どうやら何を覚えるかは本人の種族やクラス、それまでの成長や経験によって変わるらしい。
単純にステータスを倍増させる【二重恩寵の泉】とは違うが、こっちは実戦で使える能力が直接手に入る。それだけに、スキル次第では二重恩寵以上の恩恵があった。
特にえげつなかったのが獣人だ。
クラスや成長方向に関係なく、身体能力を活かすスキルを覚える者が多く、人間種を遥かに凌ぐ能力を発現するヤツまで現れた。
獣人で侍のマッソに飲ませたところ、覚えたのは【獣化】という技で、試しに模擬戦をやってみたら、俺は一度負けた。
なにしろ速い。【獣化】した状態から【瞬天】まで使われると、今の俺ですら目で追えなかった。
エリーが覚えたのは【無影】という忍者らしいスキルだった。
名前だけを聞いた時は姿でも消えるのかと思ったが、実際に消えるのは姿ではなく、気配、足音、殺気といった相手に存在を悟らせるものだった。
試しに森の中で使わせてみると、目の前に立っている間は普通に見える。しかし一度木の陰へ隠れた途端、本当にそこにいるのかすら分からなくなった。
これが【暗殺】と恐ろしく相性がいい。
俺との訓練で暗殺に特化してきたことが影響したのか、今のエリーは一度視界から外してしまえば、次に姿を見せる時には既に殺されていてもおかしくない。
「これぞNINJAよ!」
本人も大当たりだったらしく、しばらくは無意味に【無影】を使って俺たちの前から消えては喜んでいた。
そしてミヤビ。
エルフは身体的な成長が遅く、ミヤビ自身も今まで回復だけに特化して育ててきた。それが良かったのか、他の冒険者からはまだ一人も確認されていない【絶対守護】というスキルを覚えた。
発動するとミヤビを中心に青白い半球状の光が広がり、一定時間、その内側にいる者への外部からの攻撃を完全に遮断する。
しかも内側から外への攻撃は素通りだった。
近距離で敵の懐へ飛び込む俺やリリーとは相性が悪いものの、遠距離攻撃のできるエリーとの連携は格段に上がった。
「いいなー! 僕もモンスターじゃなきゃ特別なスキル手に入るのになー」
「いや、人食ったらパワー倍増って相当チートだぜ? でも少しワクワクするなー」
エリーに続いて俺までテンションが上がり、いよいよ自分で飲む日が来た。
申し訳ないが、サムライがどんなスキルを覚えるのか知りたかったので、同じクラスの冒険者たちには先に飲んでもらい、今回は充分にデータを取ってある。
前に覚えた【虐殺】は、使ったあと身体中の骨が折れたんじゃないかと思うほどの痛みが代償の諸刃のスキル。
今回は違うはずだ。
「希望は人間で覚えたヤツがいた【斬撃】ってスキルがいいな! カッコいいし、なんか遠くまでビームみたいなの飛んでいくし!」
泉の水をグラスいっぱいにすくい上げる。
「いざっ!」
一気に飲み干した。
「おお! 飲んだか! どうだ? どうだ?」
「これ以上迦楼羅さん強くなったらどーしよお!」
「ステータス!」
俺は表示されたステータスをスキル欄までスライドさせた。
【永眠】
「はあ?」
「あっ、いや、なんだろーねー? これ! 相手を一撃で永眠させちゃうって技かもねー……」
「おいエリー、何故引きつっている!」
「「「アハハハハハハハッ!」」」
みな耐えきれず笑っていやがる!
「いや〜、多分酒ばっか飲んでるからだよおー」
「らしいわ! ほんとらしい!」
「僕、こんなダサいスキルだったらホントに死ぬかもー」
「……ハハッ、だよなぁ。カオス系しか俺覚えないしなー。使ったら死んじゃったりして、ハハハ!」
「「「えっ……」」」
「いや、マジになるな!」




