9話 同じ人間
◇
翌日、俺たち四人は初心者の町へ向かった。
ターシャを説得するのは難しかったが、最後には本店と支店へお触れを出すことを了承させた。
初心者の館へ着くと、俺たちは掲示板に貼り紙を貼っていった。
【ターシャ商会利用について】
死後、肉体を渡す契約をしない者は、今後ターシャ商会の利用を禁ずる。
その下には、説明を行う日時と場所も記載した。
◇
初心者の町の中央広場。
町の中心にあるだけあって普段から人通りは多いが、広場の中央だけは露店も出なければ、立ち話をする者もほとんどいない。
そこは、この世界に来て十年を迎えた者の死刑が執行される場所だった。
中央には黒ずんだ石造りの処刑台があり、その周囲には何に使うのか分からない鉄の杭や、鎖を固定するための金具がいくつも残されている。処刑方法はその時にならなければ分からず、連れてこられた本人ですら、自分が何をされて死ぬのか知らない。
何度洗われたのか分からない石畳には、ところどころ落ちない染みが残っていた。
以前なら死刑の日になるたびに大勢の冒険者が集まり、次は自分かもしれないと怯えながら処刑を眺めていた場所だ。
今では介錯を望む者が増えたせいか、ここで死刑が行われること自体、以前より少なくなっている。
そんな場所に今日は俺が立っていた。
「みんな貼り紙に書いてある通りだ! まず説明する。聞きたいやつは集まれ!」
声を張り上げると、何事かと足を止める者が現れ始めた。
十分ほど待つ頃には、いつもなら死刑を見るために人が集まる広場を、今度は俺の話を聞きに来た冒険者たちが埋めていた。
「まず初めに、俺は西にいるモンスター連中と手を組んで、南地区を攻略するつもりだ」
当然、広場が騒がしくなった。
『モンスターと手を組むのか!?』
『エリーを殺した奴らだろ!』
「ああ。俺もリリーと戦ったし、エリーも一回殺されてる。それでも組む」
昨日の会食で聞いた話を、必要なところだけ説明した。
モンスターを選んだ者はほとんど成長できず、パーティから捨てられたり、設定された敵と間違われて殺されたりする。リリーはそんな連中を集めて西に居場所を作り、生きた人間を狩らせない代わりに、すでに死んだ人間だけを食わせてきた。
「お前らも勘違いすんなよ。あいつらだって最初からモンスターだったわけじゃねえ。ここへ来る前は俺たちと同じ人間だ」
『でも、人間を食うんだろ?』
「ああ。それがあいつらの成長方法だからな。ただ、そこらで死んだ奴を食ってるだけじゃ、南を攻略できるほど強くならねえ」
だからリリーは俺たちを偵察し、先に戦って自分たちにも対等にやり合える力があると見せた。そのうえで会食の席を用意し、生きた人間ではなく、もう二度と戻らない死者の身体を譲ってほしいと頼んできた。
「俺はその話に乗る。死んだ身体でモンスターを強くして、そいつらと一緒に南へ行く」
『でも……残された仲間の気持ちはどうなるんだ?』
『天国に行けなくなるかもしれないじゃないか……』
「なに寝ぼけたこと言ってんだ! もう俺たちのいるここが地獄だろ」
広場のあちこちから野次が飛んだ。
『それなら勝手にやればいいだろ!』
『なんでターシャ商会まで使えなくするんだ!』
『それじゃ強制じゃないか!』
「ああ、そこは俺が決めた!」
声を張ると、野次が少しずつ収まっていった。
「墓に入りたい奴は墓に入ればいいし、天国に行きたいなら勝手に行け。俺は止めねえ。ただ、俺たちが作った町、運搬、装備、情報、ステータス上げの支援を使って先へ進みたいなら、死んだあとは次の奴らのために身体を残せ。それだけだ」
『でも、それで本当に攻略が進むのか?』
「知らん!」
広場のあちこちから「はあ?」という声が上がった。
「知らねーもんは知らねーよ! 俺だってまだクリアしてねえんだからな!」
何人かが笑い出し、それにつられて張り詰めていた空気も緩んだ。
「東じゃ俺たちより先へ進む奴を増やした。町を作って、攻略を諦めた奴にも働いてもらった。今度はモンスターとも組む。それで南へ行く」
人間だろうが、獣人だろうが、エルフだろうが、モンスターだろうが、使える力を種族で分けている場合じゃねえ。
「生きてるうちは好きに生きろ! 俺も好きに生きる! だけど死んだあと、その身体で元は同じ人間だった奴を生かせるなら、俺はそっちに使いたい!」
広場の中央に残された処刑台が目に入った。
「こんなクソゲームに長くいると忘れちまうかもしれねえけど……俺たちは、もともと同じ人間だ!!」
しばらく静まり返っていた広場の中で、一人の男が手を上げた。
『……お、俺はいいぞ』
声のした方へ目を向ける。
『どうせあと二年しかねえ。墓なんか作ってもらったところで、見る奴もいねえしな』
すると今度は別の場所から声が上がった。
『俺もだ!』
『俺も構わねえ!』
それをきっかけに、広場のあちこちから少しずつ手が上がり始めた。全員じゃない。腕を組んだまま俺を睨んでいる奴もいれば、隣の仲間と相談している奴もいる。
「ターシャ商会を使うかどうかも、自分の身体をどうするかも、今決める必要はねえ! ただし契約した以上、死んでから『やっぱり嫌です』は聞けねえからな!」
『死んでんだから言えねーよ!』
「そりゃそうだわ!」
広場に笑いが起こった。
普段なら誰かが死ぬところを見るために集まる場所で、これだけ大勢が笑っている。




