7話 魔王城 会食
◇
翌日、俺たちは湖を大きく迂回し、昨日サキュバスが飛び去った城へ向かった。
身体の痛みは徐々に消えていき、夜になる頃には消えていた。
「エリー……本当に行けるのか?サキュバスの言うことなんて別に優先しなくてもいいんだぞ?」
「いや!今回死んだことでアタシの意思は固まった!ぜってーリベンジする!」
遠くからでもかなり大きく見えていたが、近づくにつれてその異様さがはっきりしてくる。
深い森を抜けた先には切り立った崖がそびえ、その上に黒い巨大な城が建っていた。いくつもの尖塔が空へ突き刺さるように伸び、城壁には細長い窓が無数に並んでいるが、昼間だというのに中から明かりは一つも見えない。
崖の下には湖から続く黒い水が流れ、城へ渡るには一本の古びた石橋を通るしかなさそうだった。
「うわぁ……いかにもって感じだね」
「妾は帰りたくなってきたぞ……」
「アプちゃん精霊じゃん。こういうの怖いのお?」
「怖いものは怖いのじゃ!」
石橋へ足を踏み入れると、俺たちの靴音だけがやけに大きく響いた。
昨日のガーゴイル以外にも何かいると思って警戒していたが、不思議なことにモンスターは一匹も現れない。
やがて巨大な城門の前まで辿り着くと、俺たちが触れてもいないのに、重そうな二枚の扉がゆっくりと内側へ開き始めた。
「……歓迎は、されてるみてーだな」
扉の向こうには、外の光がほとんど届かない真っ暗な城内が広がっていた。
◇
「ようこそ、迦楼羅様。リリーはこの先の会食室でお待ちしております」
「リリー?」
「ええ、この城の王の名ですよ」
ガイコツに服を着せた執事風のモンスターから挨拶され、会食室へ案内された。
確か最初に選べるのはスライム系やオオカミ系だったり、馬っぽいモンスター、それと悪魔系のようなやつだったが、ガイコツみたいな元人間もいるのか。
そんな不思議な存在に疑問を持ちながら後をついていくと、執事が大きな両開きの扉を開いた。
「お待ちしておりました」
薄暗かった廊下とは違い、会食室は何十本もの蝋燭が灯された巨大なシャンデリアに照らされ、長いテーブルには白いクロスが敷かれていた。
銀の食器に透き通ったグラス、中央には見たこともないほど大きな肉料理や色鮮やかな果物が並び、その間を埋めるように花まで飾られている。
どう見ても四人で食う量じゃねえ。
その長いテーブルの一番奥で、昨日のサキュバス――リリーが一人、ワイングラスを傾けていた。
「これだけの食事を都合よく並べられているってことは、監視されていたな」
「ああ。客人は日本人だ。西洋風とは違い、冷めた馳走は口に合わんと思ってな……毒見もいるか?」
「いや、殺す気なら昨日やればよかったはずだ。俺の見当違いだったか?」
「なるほどな。噂通り頭もキレるらしい。ではまず乾杯といこうと思うが、何にするか……」
「噂ね……互いのメリットに」
「それは良い。では乾杯」
俺たちは乾杯については素直に従った。
ミヤビはよく分かっていないだろうが、一度殺されたエリーは冷静を保つのに必死だろう。
しかし意外にも、先に手札を見せてきたのはリリーだった。
「貴公ら人間と、我々が勝手に呼んでいる【限界突破者】のことをまずは知ってもらおう。ステータス」
「なっ!?」
目の前に開かれたリリーのステータスは異常なほど高かったが、それ以上に目を疑ったのは別の部分だった。
この女――この世界に来て十七年以上経っている。
「モンスター系は死刑がない……いや、ある。なぜだ……」
「僕も一度、死刑を受けている。ただ死ななかった。執行は一度きりだ」
十年経てば死刑。それだけは、この世界に来てから一度も疑ったことがなかった。それを目の前の女は一度受け、今もこうしてワインを飲んでいる。
「貴公が倒したガーゴイルも十年を越えていたが、ルール上で殺されれば普通に死ぬ。この件について僕らが知っているのは以上だ」
「なぜだ? モンスターだと例外が生まれるのか」
「それが貴公の知っている事実であれば、そうなのかもしれない」
「それで、そちらが望むこちらの情報とは?」
「簡単に言えば……共存?」
「共存を望むのであれば、アタシが殺されたのは筋違いじゃない?」
「それはお互い様であろう」
「エリー、悪いがここは俺が話す」
「ええ、ごめん、迦楼羅」
「共存したい理由は?」
「南地区の攻略と、モンスターと間違われて元人間が殺されている現状を止めたい」
「確かにお互い様だな」
「そして下世話な話で申し訳ないが、もう一つある。ハートをすべて失った死体、もしくは死刑を執行されたモンスター以外を……我々にいただきたい」
「なんだと?」




