3話 ステータス二倍!
「こんだけ謎が多すぎるゲームで、先に進んだ奴らがわざわざ前に戻ってくるなんて、ほぼないだろ? 俺は西に、エリーは東に向かって攻略する。それだけでも一、二年はかかる。圧倒的に時間が足りねえうえに、最初から倒せないようなモンスターばかり出てくるせいで、みんな思考が止まっている」
「なるほど。アタシらの代わりに先へ進ませて、全滅しかけた冒険者も今度は入口まで戻れば、またパーティを作れるようにしたのか!」
「半分当たり。東側になにもないなら、俺たちは行かなくて済む。悪く言やぁ、俺たちの代わりに犠牲になってもらえる……これが俺の目的だ」
「えー、迦楼羅さん? じゃあ私たちは待ってればいいの?」
「そういうこと。急にずる賢く聞こえたろ?」
◇
有益な情報が入ってくるまで、そう時間はかからなかった。
ターシャ商会へ、最初にエジンへ向かったパーティの一人が満身創痍で戻ってきた。ヒーラーを含めて仲間は全員死に、最後に残ったのはチーターみたいな姿をした獣人のサムライ、マッソ。俺と同業だ。
今のところ商会で一番優秀なヒーラーになっているミヤビに治療させると、傷そのものは半日ほどで綺麗になった。
「ありがとう、助かった……」
マッソはそのまま翌日まで眠り続け、昼頃になってようやく起きると、俺たちが作ったバーへ挨拶に来た。
「ああ、なにしろ命は助かったんだ。精神的なもんも回復したら、またなんか道を探せよ」
「かたじけない、迦楼羅殿。拙者、迦楼羅殿が最初に初心者の町で募集をかけたとき、あの場にいた者です」
「ああ、なんとなく覚えているよ」
「そこで一つ、拙者とサシで手合わせ願えませんか」
「おいおい、なにがあったんだよ? いきなり言われても困るぜ」
「その『なにがあったか』は……あなたが生きていたら答えましょう」
そう言うと、マッソは正座して丁寧に頭を下げた。
◇
「迦楼羅殿、殺す気で行かせていただきます」
バーの外へ出ると、マッソは俺へ向かって構えを取った。その異様な雰囲気を感じ取ったのか、町にいる冒険者たちも次々と集まってくる。
「殺す気ねぇ……」
「「【瞬天】!」」
まさかのマッソも【瞬天】を使ってきた。
普段の倍近い速度で迫ってきた一撃を鞘で下から弾いて逸らしたが、マッソはそのまま【瞬天】を繰り返し、獣人特有のバネを活かして息つく暇もなく斬り込んでくる。
「おい! あの迦楼羅さんが押されてるぞ?」
「まさか? 敵襲なのか?」
力やスピードなんかの種族差は、ステータスが上がれば徐々に縮まっていく。それでも同じサムライ同士なら、元々の身体能力に勝る獣人のほうが速い。
全部を捌ききれず、俺の手足には少しずつかすり傷が増えていった。
(捌ききれねー!)
マッソがさらに【瞬天】を重ね、今度はその勢いのまま居合を放ってきた。
剣筋を下から鞘で受け、その力を殺さず横へ逃がすと、マッソの身体まで前へ流れる。俺はその勢いに合わせて身体を捻り、そのまま鞘を腹へ叩き込んだ。
マッソの巨体は五十メートルほど吹っ飛び、激しい音を立てて建物の壁へ叩きつけられると、そのまま壁まで崩れ落ちた。
「うわ……ターシャにこりゃ怒られるな……」
そんなことを呟きながら、俺は今までやった覚えのない技を確認するため、久しぶりにステータスを開いた。
「【返衝】?」
説明を見る限り、相手の力を利用して倍近い威力を返す、いわゆるカウンター系の技らしい。
◇
「おーい、生きてるかー?」
倒れたマッソの元へ行き、バシバシとほっぺたを叩いていると、「痛った!」と言って目を覚ました。
「おお、生きてたか。もう勝負はついたと思うが……異論は?」
マッソは首を振り、また正座を始めたので、「いやいや」と無理やり立たせて、とりあえずバーへ戻った。
ミヤビに治療させながら、約束通りエジンから先の話を聞く。
「東に続くエジンの地域。あそこは、すごくイヤらしい世界でした。拙者たちは簡単に言えば、持ち上げられていい気にさせられる。そして最後に潰される……そんな地域でした」
話を聞く限り、エジンから先は初心者の町周辺とはまるで違った。
いきなりどうしようもない化け物が出てくるわけでもなく、獣人の洞窟を越えられるくらいまで育った冒険者なら、戦いながら普通に先へ進めるらしい。
今では洞窟の直前にターシャ商会もある。充分に準備を整えてから挑めるようになったおかげで、昔のエリーたちみたいに、エジンへ辿り着く頃には満身創痍になっているパーティも減っていた。
エジンの先には【ノアル】、さらに【ロマン】という町まで確認されている。
そこへ向かう途中の敵も、少しステータスや熟練度を上げれば倒せる程度で、町へ着けば住人が喜び、新しい情報まで教えてくれる。【設定】でそう作られているだけなんだろうが、マッソたちは久しぶりに、本当にゲームを攻略しているような気分になったそうだ。
そして極めつけが、【ロマン】の先にある【二重恩寵の泉】。
その水を飲めばステータスが倍になるらしく、実際にマッソのステータスも倍になっていた。
「迦楼羅殿と戦ったのも……本当に倍になったのか、確かめたかったというのもあります」
「ステータスを見せてくれ」
マッソのステータスを確認すると、全種族を合わせた殺害数は五千にも届かず、熟練度だって俺よりかなり低い。それなのに基本ステータスそのものは倍増し、俺が持っていないスキルまでいくつも覚えていた。
「獣人ってのもあるだろうが、明らかに俺よりスピードなんかは速い」
「それでも拙者は勝てませんでしたがね」
だが、エグいのはここからだった。
【ロマン】では、こんな噂が流れていたという。
『東の橋を抜ければ、クリアに辿り着いた冒険者がいるらしいぞ』
ステータスが倍になり、それまで苦戦していたモンスターや獣人まで軽々と倒せるようになったマッソたちは、その噂を信じて東の橋へ向かった。
そこで待っていたのが、イメージまんまの格好をした【弁慶】と名乗るボスだった。
マッソたちは、その一人に圧倒的な力でねじ伏せられたというわけだ。




