2話 デス・シムシティ
「悪いなエリー、今日の朝、町を発つ前にオーケーの返事をもらったしな。なんせ口説くのに時間がかかった」
「「口説いたーーー?」」
「ちょっと待って! アタシたちがいるのに、更に女を!? 迦楼羅って何考えているの?」
「まさに淫獣ですよ! このおっさん」
「ミヤビ、淫獣って……。ともかく、お前らと潰した山賊だぜ? 相手は設定のモンスターじゃねえ、人だ」
「あ……それは……そうだな」
「互いに理由があったのはターシャも理解している。ただ、時間が必要だっただけだ」
「私は町を作ったら抜ける。元々戦闘能力にも自信はないし、興味もない。ただ女としては、お前さんたちのライバルになるかもしれないねぇ」
ターシャはそう言うと、舌で唇を舐めた。
「ほらー! 女豹ですよ! エリーさん! 淫獣と女豹! 今後の冒険で何をしでかすか、一個しか想像できませんよ!」
「ああ! アタシもだ! ここは暗殺能力で――」
こうして俺たちはグダグダのまま、洞窟を目指した。
◇
三日後、問題の獣人の洞窟へ到着した。
獣人の洞窟というのは俺が勝手につけた名前で、なにしろ中にいるのは豹型や狼型の獣人ばかりだ。試しに数百匹ほど殺してみても減る様子がなかったので、こいつらは【設定】で作られ続けるモンスターだと判断している。
四日目にはマローニに頼んでいた後続隊も到着し、町に必要な資材が運び込まれて工事が始まった。
一ヶ月で人工が約千人。
俺たちがモンスターを倒しまくって貯めたマニーの四分の三が吹っ飛んだものの、それだけ使えば町らしい形にはなった。
その間、ターシャには工事現場の指揮を任せ、俺たち三人のパーティも一時的に解散した。俺は一人、ミヤビとエリーは二人で組み、初心者の町と建設中の町をひたすら往復する。
初心者の町には募集板を立て、世話になったバーのマスターや宿屋の店主にも手伝ってもらって、とにかく人を集めた。
【自信がない、諦めた冒険者募集中(特にブローカー)】
【次に進みたい冒険者は迦楼羅まで】
【モンスター職で足の速さに自信がある者】
こんな募集でも、出してみれば思った以上に人は集まった。
特に足の速いモンスター職は片っ端から雇い、以前俺の左腕を作った技工士には、そいつらが引ける馬車の荷台みたいなものを二台作らせた。
馬がいないなら、足の速いモンスターに引かせりゃいい。
一台には俺、もう一台にはエリーとミヤビが乗り込み、モンスター職数匹と技工士を一人ずつつける。空いたところにはブローカーや移住希望者を乗せ、初心者の町と新しい町を往復した。
普通に冒険者の町を経由すれば十日ほどかかる道のりも、こいつらなら直接二日で走り抜けられる。
しかも、その二日間をただの移動で終わらせる必要もない。
ステータスを上げたい冒険者から手数料を取り、道中だけ俺たちとパーティを組ませる。襲ってくる設定モンスターを最初は俺やエリーたちが仕留めながら経験を積ませ、新しい町へ着く頃には多少なりとも強くなっている。
移動できて、ステータスも上がる。
当然、希望者は殺到した。
「くノ一のおねーさん! 強いね! どうだい? 今後も俺と組まねーか?」
「エルフのミヤビちゃんマジ萌え! パーティ組みたいよぉ〜!」
俺とは違い、ミヤビとエリーは男の冒険者からすこぶる人気で、これも予想外に商売へ役立った。
そうして、ようやく俺が作りたかった町の形が出来上がった。
その名も【ターシャ商会 獣人洞窟前本店】だ。
初心者の町にあるものはほとんどタ賄えるようにし、ステ上げ支援所、職安まで揃えた。
「ターシャ、冒険者のパーティとしてはここでお別れだが、これからも連携してやっていってはくれないか」
「あらっ、悪い男だねえ。ここで捨てられるのかい?」
「捨てるって……元々やる気――」
言い終わる前にターシャが俺へキスをすると、すかさずミヤビがヒップアタックを食らわせてターシャをすっ飛ばした。
「まったく、油断も隙もない!」
「おいおい……」
「フフッ、誰にでもいい男を口説くチャンスは平等にあるのよ、お嬢ちゃん? 限りある時間だからね」
「うう、それは……」
「うん! どうでもいい! よくやったミヤビ!」
エリーはそう言って親指を立てた。
◇
それから二ヶ月もすると、初心者の町にうじゃうじゃいた連中の四分の一ほどが、ターシャ商会のある町へ移っていた。
その頃には、俺たちが付きっきりでステータスを上げてやる必要もなくなっていた。
何度も往復するうちに設定モンスターを一人や二人で倒せる冒険者が増え、そいつらの中から「どうせマニーを稼ぐなら、運搬の護衛をやりながら戦いたい」と言い出す奴が出てきたからだ。
運搬には護衛が必要で、冒険者はマニーと戦う相手が欲しい。足の速いモンスター職には運搬の仕事を回し、ターシャ商会には人と資材が入ってくる。
最初は俺たち三人で回していたものが、勝手に回り始めた。
しかも肝心の足が速いモンスタークラスは、最初の募集でほとんどこっちが押さえている。
気づけば初心者の町から東へ向かう人と物の流れは、ほぼターシャ商会を通るようになっていた。
そして嬉しい報告がもう一つ。
俺たちが町作りにかまけて放ったらかしていた獣人の洞窟を、自力でクリアするパーティまで現れたのだ。
ターシャ商会ができて一ヶ月を過ぎた頃からは、俺がナビゲートしなくても、そのままエジンへ向かう連中がちらほら出始めていた。
◇
「「「かんぱ~い♪」」」
ターシャ商会立ち上げ計画から三ヶ月後。
俺たちが作ったバーの一つを貸し切り、創設メンバーの五人だけで、いわゆる【打ち上げ】をやっていた。
「ターシャ商会って迦楼羅さんの色が濃いよね〜。バーが七件もあるの、完全に趣味出ちゃってるよ」
「そうそう。でもどれも騒げる感じじゃないのが、ちょっとジジ臭いけどねえ」
「そのうちクラブでも作るよ。ノリノリになれるところ」
「えー? ターシャさん、まさかのラテン系? 普段はクールに決め込んでるのに?」
「大人のエロス、怖っ!」
そんな女子会みたいな始まりだったが、ミヤビが少し酔い始めたところで、それまで黙って飲んでいた俺に絡んできた。
「でも迦楼羅さんが、こんなお人好しだと思わなかったよぉ〜! まさか初心者の町で燻ってる冒険者やリタイア組に、こんな形で希望を与えるなんてねえ」
「そうそう! らしくないっていうか」
「いや、そんなつもりはないよ」
「迦楼羅よ、妾もそう思うぞ。謙遜するな」
「いやいや、迦楼羅はそんなんじゃないだろ? もっと狡猾だよ、この男は」
「「また、大人の女ぶるー」」
「ターシャの言うとおりだよ。俺はこのゲームの特性を見て、最終的には自分たちのことしか考えてねえ」
「どういうこと?」




