11話 人を殺すということ
◇
【山賊大将バッサ 中央邸】
「なんだと? たった二人の女と精霊に五十人はいかれただと?」
「はい、バッサ様。かなりの手練れであると同時に、捕らえた女や子どもまで見境なく殺し回っているようです」
「なるほど……かなりの冒険者様がお出ましということか! 全員に伝えろ! 生きている者は中央邸に集まり、残った全員で迎え撃てと!」
「御意」
バッサと話していた忍の家来は、伝令のため戦闘地区へと向かった。
◇
「エリー! 落ち着いて! 私……多分、魔力が尽きかけてる!」
「ハァ……ハァ……なにっ? こんなときに……はっ……山賊が中央に逃げていく……どうする、ミヤビ! どうするんだ!」
「分かんないよ! 私、もう……分かんない……」
二人とも頭の先からつま先まで血と涙、それ以外にも何が付着しているのか分からないほど汚れて、とてもまともな人間には見えない姿になっていた。
エリーはもう、自分が何をしているのかも分かっていないのだろう。経験があるから俺には分かる。
そしてミヤビの心は、とうに折れているように見えた。
「よお。三人とも生きていてなによりだ」
俺は二人がもう戦える状態ではないことを承知で、三人の前へ歩いていった。
「ハァ……ハァ……迦楼羅……なにがしたいんだ」
「迦楼羅さん……もう私……ダメかも……」
「迦楼羅よ……今回は無茶な挑戦であったと、妾も流石に思うぞ……」
「綺麗なままで高みの見物がそんなにおもしれーか! 迦楼羅っ!」
「そうだな……エリー。だけど、このゲームは殺し続けないと死ぬゲームだ……残念だけどな」
それだけ言い残し、俺はおそらく百人近くが集まっている中央の建物へ走った。
「バッサ様! 男です! 新たに男がこちらへ突っ込んできます!」
「奇襲だ! 新手の冒険者がこっちに向かってくるぞ!」
「【瞬天】!」
瞬間的に間合いを詰め、木の幹を蹴って方向を変える。さらに【瞬天】を重ね、頭上から山賊の喉だけを狙って斬り抜けた。
この速度に慣れていない山賊では、俺の身体を目で捉えることすら難しい。
一人、二人と喉を斬り、そのまま集団の奥へ抜ける。
そこに、一際デカい男がいた。
バッサと呼ばれていた男へそのまま刀を振り下ろしたが、太い金棒で受け止められた。
「流石は大将……なかなか死なねーなあ」
「伊達に山賊として生涯を終える覚悟を決め――」
最後まで聞く必要はない。
左腕のギミックを射出し、バッサの顔面へ叩き込む。
「ぐっ!」
怯んだ一瞬で【瞬天】を使い、間合いを詰めた。
そのまま刀を振り下ろすと、顔面に食らいついていた俺の左腕ごと刃が通り抜け、バッサの鎖骨辺りまで深く食い込んだ。
横から忍の刀が俺の首を狙ってくる。
後ろへ退いたが間に合わず、刃先が両頬を走って口の端まで裂けた。
「キャー!!」
遠くから、どちらかの悲鳴が聞こえた。
忍には構わず刀を返し、そのままバッサの胴体を斬り抜いた。
「うっ……うっ……」
バッサは腹から内臓を撒き散らし、その場に崩れ落ちた。
俺はすぐ隣にいた忍の喉元へ刀を突きつけ、その向こうにいる山賊たちへ声を張った。
「子どもと捕らわれていた女は助けてやる! それ以外を皆殺しにするのは変わらん! せめて痛みのないよう殺されるか、このまま戦って苦しみながら死ぬか! 今決めろ!」
「ああ……俺たちの負けだ……」
忍は喉元の刀を見ながら、忍者刀を地面に落とし両手を上げた。
「一つだけ願えるなら……仲間ではあったが、山賊じゃない女もいる。ソイツらも頼む……」
「……分かった。ならお前らは一瞬で殺してやる」
◇
残った山賊をすべて殺し終え、俺は地面にペタンと座り込んでいる二人のところへ歩いた。
左腕のギミックは一緒に斬ったから右腕しか残っておらず、口は両端まで裂けた、口裂け男。
全身もバケツで血を浴びせられたような有様だった。
「ほらっ、綺麗だった服も一瞬でお前らと一緒だ、クハハハハッ!」
◇
山賊討伐から四日目。
未だに宿屋から一歩も出ていなければ、左腕のギミックも新しいものを取り付けていない。
一日目はみんな死んだように丸一日眠り、二日目からの丸三日間は、俺が二人のアドレナリンを鎮めるために過ごしていた。
それも力尽きると、二人はまた深い眠りについた。
「おう、迦楼羅! 技工士が、まだ取り付けに来ないのかってさっき来てたぞ」
「ああ、オヤジ、悪い……まさかこんなに長く引きずるとも思ってなかったからな……って、あれからもう五日経ったのか」
五日目、宿屋のマスターに言われて、ようやく俺の左腕は復活した。
今回の戦闘で【瞬天】を使った際、ギミックの発射も巻き戻しも俺の速度についてこられないことが分かったため、ついでにそこも改良してもらった。
おかげで刀を持つくらいなら今まで通り左のギミックでもできるが、その代わり細かい作業や日常生活には、さらに向かない代物になった。
もう日常生活に限れば、隻腕と大して変わらない。
◇
「オヤジ……そろそろだよな?」
「……ああ」
「これ、宿代!」
俺は今回のクエストでもらった報酬の半分、五百万マニーを渡した。
「こんなに……かかってねえよ。もらえねーって」
「いや、ここの宿屋は残すんだろ? 誰かに引き継いでもらって」
「ん……ああ。一番古いマローニが引き継いでくれるってことで、話はしてある……」
「じゃあ潰しちゃいけねぇな! これから色々と物入りだろ? それに、あの女二人もここの宿を拠点にして強くなったんだ。その礼も兼ねてだ」
マスターの目から涙が零れ落ちた。
「この宿がオヤジの生きた証だ! 死刑も堂々と受けて逝ってこい」




