10話 山賊討伐
◇
「改めて言うが、俺は言った通り手は出さないし、助けもしない。相手は人間だ。一気にハートを三つ奪う方法だって使ってくるかもしれねえ。それでも俺は助ける気はない」
冒険者の町を出る前、俺は二人に改めてそう告げた。
「作戦はどうするんだ? ミヤビとアタシへの指示は?」
「ない。自分たちで組み立てろ」
「無謀すぎないか? 一瞬、パーティを抜けるかどうかまでアタシの頭にはよぎってるんだけど?」
「それならそれで構わねえよ」
「……信じていいんだな?」
「どーいうことー? 私は抜けないよー」
「……俺は信じている」
◇
冒険者の町を朝に出て、山賊の村へ辿り着いた頃には日が落ちかけていた。
村と言っても大したもんじゃない。森を切り開いた土地に、少し立派なテントのようなものがいくつも建てられているだけで、村というより集落と呼んだほうがしっくりくる。
ただし規模は思っていたよりデカい。
大小のテントがかなりの範囲に立ち並び、その間を何人もの男たちが行き来している。焚き火の煙も一つや二つではなかった。
「……思ったよりいるな」
さて、どうする。
俺は何も言わず、二人が動き出すのを待った。
◇
「ミヤビ、アタシがまず人数と配置を【密偵】で調べてくる。一時ほど経っても戻らなかった場合は……」
「場合は?」
「この案件を諦めて、迦楼羅と帰れ」
「はあ? 初手から命がけ? 大丈夫なの〜? エリー?」
「いや……やるしかないだろ? 信じて」
「う、うん……気をつけて……」
そう言い残し、エリーは木の枝に飛び乗って森の中へ消えていった。
「大丈夫かな〜? エリー」
「ミヤビ、覚えておけ。この世界じゃ『大丈夫』なんて言葉は甘えだ」
半刻ほどすると、エリーは何事もなかったように戻ってきた。
「概ね分かった。今説明する」
拾った枝で土に見取り図を書きながら、エリーが調べてきた情報を説明していく。
確認できた人数は百六十ほど。ただし、その中には戦えそうにない女や子どもも含まれている。
集落の造りも『奥に行けばラスボス』なんて単純なものではなく、中央にある大きな建物を守るように大小のテントが円形に建てられているらしい。
「エリー? 私はどうしてあげたら、役に立てそう?」
「なるほど……迦楼羅が言ってた【相性】ってこういうことか……」
エリーは地面に描いた見取り図を眺めながら、自分で考え始めた。
「じゃあ単純にいこう。ミヤビはアタシについてきて。アプサラスを召喚して、アタシの後ろに危険がないか見てもらう」
「それなら迦楼羅さんとやってるからできるよ〜。それでエリーが危なくなったら回復すればいいんでしょ〜?」
「ああ。アタシは見つからないように外側から一人ずつ減らしていく。もし見つかって囲まれたら、アプサラスにも手伝ってもらう」
「妾も戦うのか?」
「できる?」
「ミヤビを媒介にせねば大した威力は出せぬが、その程度なら問題ない」
「十分だよ。ミヤビは攻撃しなくていい。アタシと自分が死なないことだけ考えて」
「は〜い!」
どうやら作戦は決まったらしい。
◇
俺は少し離れたところから二人の様子を見ていた。
エリーは東側へ回り込み、木の上から集落へ忍び込んでいく。ミヤビも遅れながらではあるが、なんとか後についていけているようだった。
東側にいた見張りを一撃で仕留め、そのまま北側にいた二人の山賊へ迫る。エリーはテントの陰や木々を使って姿を隠しながら移動し、背後から次々と山賊を殺していった。
五十日かけて鍛えただけあって、ここまでは問題ない。
だが、一つのテントを調べ始めたところでエリーの動きが止まった。
中には女と子どもがいた。
「ひっ……お助けを……私は囚われの身です……どうか……」
「えっ……ああ、すまな――」
女へ気を取られたところへ、背後から巨大な鉄爪を装備した山賊が襲いかかり、その爪をエリーの背中へ突き立てた。
ほぼ同時に、助けを求めていた女まで隠し持っていた小刀をエリーの腹へ突き刺す。
「ぐはっ……」
エリーの口から血が溢れ、その身体が崩れかけた。
そこへようやく追いついたミヤビが『ヒールプラス』をかけると、アプサラスも鉄爪の男の後頭部へ水砲を叩き込み、大きな音とともに吹き飛ばした。
エリーの傷はすぐに塞がったが、背中と腹の衣服には穴が開き、流れた血で真っ赤に染まっている。
『敵襲ー!』
『侵入者だ! 女がいるぞ!』
騒ぎを聞きつけた山賊たちの声が集落のあちこちから上がり、テントから次々と人が飛び出してきた。
「ぐあああああああ!」
エリーは自分を刺した女をその場で刺殺し、続けてアプサラスの水砲で転がっていた鉄爪の男の喉を掻っ切ると、そのまま数多く並ぶテントの間へ消えていった。
そこからは、もう姿を追う必要すらなかった。
右手から山賊の断末魔が聞こえたと思えば、今度は左奥から女の悲鳴が響く。そのたびに怒号が重なって人の流れが変わるので、エリーがどちらへ進んでいるのかだけは嫌でも分かった。
「エリー! 待って! エリー!」
そのスピードにミヤビはまるで追いつけていない。
泣きながら必死に後を追うミヤビにも、山賊たちは容赦なく襲いかかった。斬られれば自分にヒールをかけ、行く手を塞ぐ男にはダガーを突き立てて無理矢理道を開ける。
しかも、さっき助けを求めていた女がエリーを刺したせいで、誰が山賊で誰が囚われている人間なのか、もう見た目では分からない。
女が武器を持って飛び出してくれば、ミヤビも反射的にダガーを振るう。子どもほどの背丈しかない奴まで刃物を手に向かってくる以上、迷っている暇なんてなかった。
「いやああああああ!」
ミヤビの叫び声に重なるように、別の場所からも断末魔が上がった。
もはや俺の位置からでは、誰が誰を殺しているのかまでは分からない。エリーとミヤビの叫び、山賊たちの怒号、女や子どもの悲鳴がテントの間から絶え間なく聞こえ、そのたびに人影が入り乱れて走り回っている。
「半狂乱になって連携が取れなくなったか……」
最初に立てた作戦なんて、とっくに消えていた。




