なんだか何でも見透かされているようで
中心にある明国の協会本部を囲むように、四つの柱である別館は聳え立っていた。
「ここですね。実力5番目の白の神官メーティス様がいる場所は……。
私もここまで近くに来るのは初めてなので……緊張しますね」
「そうなんですか?街の中心部からそれほど離れてない場所なのに」
「この辺りにいると警備の者に声をかけられて、用事が無い者はすぐにつまみ出されるんですよ」
「なるほど……警備が徹底していると。確か3番目の神官までが別格なんですよね?」
「そうですね、でも10番目まではとても優秀な神官の証となりますから。
私なんかが気軽に会える方ではないので」
「やはり、一般人から神と崇められていうという話は本当なんですね?」
「その通りですよ。10番目の神官の実力はビア様と同レベルらしいのですが……。
あの国とは扱いが明らかに違いますよ。何せ占いの本拠地の神官なんですからね」
10番目がビアさんと同じ実力……。
ということはそれより上の人が10人はいるのか。それは何というか……恐ろしいな。
◇
そういえば、あの事をミルさんも知っているんだろうか……。
明国の神官に会うとなると……。どうしても思い出してしまう。
「あの、ミルさんはセリスさんの……あの件については知っていますか?」
「ああ、あれですか。私もしつこく色々と聞かれたことです」
「やっぱり……」
「でもあれは仕方ないんじゃないですか?この国にもああいった方は普通にいますよ。
みんな誰しもあんな一面があると思います」
「まあ、そうかも知れませんね」
俺からしたら、あれは度が過ぎていると思うが。
セリスさんの唯一の欠点……。
言うなればサラ様好き好き病。いやそんなレベルじゃなかったな。
あれはいつだったか……。確かあの時は……。
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「ああ、やっと神官になれる。本当に夢のようね……」
「あの、ところでそのカバンからはみ出しているものは?」
「ああ、これ?これはサラ様の……。
さすがにクロアでも明国一の白の神官、サラ様は知っているでしょう?
私はあの人に会うために、これまで努力してきたのよ」
「……憧れの人ってことですか?」
「そんな言葉では言い表せないわ。私の命と同等……いやそれ以上かもしれない。
会える日のために……こうやって神官になるためにどれほど頑張ってきたか。
明国にいたら中々神官にはなれないの……。だからこの功国で実力をつけてきたわけなの」
「そうだったんですね」
「クロアには、この気持ちがわからないかも知れないけどね」
「……あの、さっき何か落ちましたよ」
「…………」
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◇
……思い出したくないのに、思い出してしまった。
衝撃的な出来事は、なかなか頭から離れないものだな。
「……どうやらあそこが別館の入り口のようですね」
これが明国、神官の本拠地か。……やはり、警備員が立っているな。
「じゃあ、私は外で待っていますので」
「どうせなら一緒に入ったらどうです?」
「中で許可を貰わなければ、神官以外は入れないんですよ」
「そうなんですか」
まあこれはこれで俺的には都合がいいのかも知れないけど。
◇
クロアが別館に入り、案内された部屋に入るとすぐに一人の神官が待ち構えていた。
「こんにちは、クロアさん」
「あなたが……メーティスさんですか?」
クロアの目の前には、白く輝く衣装に身を包んだ女性が立っていた。
その姿はクロアにビアと最初に出会った時の事を思い出させた。
あの時の……ビアさんの独特なオーラを感じ取った……。
能力を使うまでもない。……間違いない、この人の実力は俺よりもさらに上だろう。
「……ここに来ることはわかっていましたよ」
まあ当然能力がありますよね。
ビアさんを超える力を持つのであれば、予知能力の一つや二つ持っているのだろう。
二人は互いに挨拶を交わした。
「それで……」
「いや、説明は必要ないです。一通りの話はわかっていますよ」
「では……」
「手っ取り早く占い力を上げたいとか?
対処法はわかっているので、手早く済ませましょう」
「そうですね……」
これは俺が話す暇が無いな。
「ではこれを、どうぞ」
メーティスはそう言うと、黒く光る宝石のような物をクロアに手渡した。
「これは……?」
「ブラックオニキスです。占い師の力を上げる手助けをする能力を持ちます。
根本的な力を上げることができる、あなたに合ったパワーストーンですよ」
なんかどっかで聞いたことある名前だな。
占い師のアイテムだったんだな。
「でも……これって黒いですよね?」
「黒いからって、全ての物が運気を下げるとは限りませんよ」
そうなのか?この世界では何でも黒いものは運気を下げるんじゃないのか?
俺はあれほど黒い服を蔑まれてきたのに。
「なんでこれが俺に合うと?それは能力でわかるんですか?」
「まあそんなものですね。
私はアイテムに精通しているので、それが今のあなたに一番効果的なアイテムということです」
「そうですか」
何だかまた、真面目そうな人が来たもんだな。
「とにかくそれを常に身に着けていてください。それだけで力は勝手に上がりますので」
「じゃあ……」
クロアは貰ったブラックオニキスを、自身のポケットに入れた。
「……占い師のアイテムにはそれぞれ十二支のマークがついている。知っていますか?」
「マークがついていることは、最近知りましたが」
「各国に三種類ずつマークは振り分けられている。
例えばこの国のマークは辰、寅、亥なんです。メインは辰なのですが」
「辰ってドラゴンですよね?」
「まあそんなものと思われて結構です。じゃあ他の国のメインのマークは何か、わかりますか?」
「蛇国は当然のことながら巳。風国は所々にマークがあったし、酉ですかね?
功国は……」
「功国でとても大切にされていた動物がいたでしょう?」
「……戌?」
「その通りです。今あなたはまたひとつ知識を得た。
これだけで占い力は1000は上がりましたね」
「これだけで1000も?」
「はい、そのパワーストーンの効果ですよ。
嘘だと思うなら、自分に青☆目視の能力を使って見てみるといいでしょう」
「……能力を使うのも面倒なので、信じることにしますよ」
これは、きっと言われた通りに上がっているんだろうな。
◇
「……ところでこれからそれを身に着けて、あるところに行ってもらいたいのです」
「それで俺の占い力を劇的に上げられると?」
「そうです。最近この国には運勢が悪くなった集団ができているのですが、
それを粛清しに、明国のある神官がこの後すぐに赴く事でしょう。
そこでその神官に能力を使い、その運命を変えてください」
「それは……中々大変そうなことですね。俺にできるのか」
「大丈夫です。あなたの赤の能力、刹那を使えばその運命は変えられるはずです。
これをうまく使えるようになれば、見違えるほど力は上がるはずですから」
「……ボスから、俺の情報は伝わっているんですね」
「必要なことですから。私が言う通りにすれば全てうまくいくでしょう」
「言う通りにすれば……ね」
それからクロアはメーティスから刹那の能力の事、目的の神官の詳細等の助言を得た。
◇
「……では私はこれから神官の集会がありますので」
「そうですか」
神官達の集会か……。本当にあったんだな。
「先ほどの件が無事に終わったら、またここに来てください。
もう少し詳しい話を色々とすることにしましょう。……それでは明日、必ずここで」
「はい……」
なんだか何でも見透かされているようで……。何なんだろうな、この気持ちは……。