この人、金のことしか考えてないんじゃないの?
◇
「では、あちらのお部屋がお客様のお部屋となります。
ゆっくりと寛いでくださいね。それでは」
ミルは家の一部屋にクロアを案内すると、丁寧にお辞儀をして去っていった。
「あ、あれ」
俺、完全にお客になってるよね?
家に入ってから急に関係が店の人と客になったよね?
……どうしてこうなった?
いやさすがに青いお姉さんみたいに気軽に泊っていってとかいうのは、ぐいぐい来すぎだけど。
急に宿屋の人と客みたいな、素っ気ない関係になるのもなんだかなあ。
この中間ぐらいなら丁度いいのに……。
赤いお姉さんは青いお姉さんほどじゃないけど、もう少し親しく接してくれてもいいと思うのに。
何だろう、この違和感。俺は付き合い長くないから、仕方ないかもしれないけども……。
ミアちゃんが相手でもあんな感じだったし。
……これはやはり何か、闇を感じますね。
あんなにお金に執着していて、真面目過ぎるのは。
本当に昔貧乏で暮らしていたからだけなのだろうか?きっと何か理由があるはずだ……。
……でも今日は色々あって疲れたから、お言葉に甘えてゆっくり休むことにしよう。
今深く考えても、良いことは何も無いだろうし。
「あ、これ意外といい布団だ」
◇
◇
「今日は私が心を込めて朝食を作りましたので、たくさん食べてくださいね」
翌朝、クロアの目の前のテーブルには豪華な朝食が用意されていた。
「ありがとう、これは美味しそうですね。でもまさか……」
「何か?」
「この食事にお金を払うとかは……」
「え?」
「え?」
「当店の朝食サービスですよ?」
嘘。サービスになってる。
「あれ、俺が今泊まっているのは……?」
「宿屋です。朝食付きの豪華な宿屋です」
「あれ?何かがおかしいな?」
「そうですね。一般的な豪華な宿屋よりもお安くしておきましょう。
……これぐらいでどうです?」
「あーなるほどねえ。やっぱりそうなんだあ」
「何かおかしなことでも?宿屋の営業を終えたら、
今日も護衛の仕事を精一杯頑張りますので。是非私を連れて行ってくださいね」
「うん……」
これは先が思いやられるな……。
俺は昨日、何故急にあんなことを思いついて言ってしまったのだろう……。
この人、金のことしか考えてないんじゃないの?
「あのさ、あまり言いたくないかもだけどさ」
「何か?」
「頭の中のお金の比率って」
「?」
「お金のことを考えている時って」
「いつもですね」
「ああ、そう……」
やっぱり、予想通りだった。
◇
食事を終えた二人は、話し合っていた。
「じゃあ、今日も占い力を上げに行くんでしょう?望む場所に連れていきますよ?
護衛の給料の分はしっかり働きますので」
俺やっぱり何か間違ったかな?
これは青いお姉さんとは別の意味で厄介だ。
「……そう言えば、国境付近の時計塔で起きた事件については何か知っていますか?」
「この間、時計塔で大爆発が起きたということは知っています。
あの組織が起こしたことですよね?」
「……あの、ミルさんは組織に対してどういう印象を持っていますか?」
「……協会の、私たちの敵です」
真剣な表情でミルは言った。
「そうですか……」
……なるほどね。ミルさんは徹底的に協会側の人間ということか。
まあ世間一般の常識ではそうなるのは当たり前か。
「じゃあ組織が何の為にあんなことをしているかを……」
ドンドンドン!ドンドンドン!
その時、家の玄関のドアを叩く音が鳴り響いた。
ドンドンドン!ドンドンドン!
「こんな朝早くに誰だろう?」
「もしかして……」
二人は玄関のドアのほうへと向かった。
◇
ドアを開けると、フードを深く被って顔を隠している人間が立っていた。
「ちょっとクロアさんに至急お話があります。よろしいですか?」
「はい?」
何で俺がここにいると知っているんだろう?
「あの、家のドアをあんまり強く叩かないでください。弁償できるんですか?」
「すいません、乱暴な事をして。でも扉は壊れてはいませんから。
……それで、二人だけで話したいのですが」
「くれぐれも気を付けてください。
……では、私は中で待っていますので二人でごゆっくり」
「はい……」
◇
クロアは家から外に出て、二人は人目につかないところで話し始めた。
「唐突に来てしまってすみませんね。私は、組織の者なんですけど」
「え?まさかもうボスからお呼びがかかった?」
「いいえ、違います。
あなたに相応しい神官が見つかったんです。……とのボスからの伝言を伝えにきたんです」
「なるほど?」
「明国の実力5番目の白の神官メーティス様に会うようにと。
彼女はシークスフィア協会明国本部、別館におられます。
すでにクロア様の話はつけてあるとのことです」
「でも、俺はまだ人探しをしている最中なんですがね」
「では、メーティス様にその人の居場所を聞くといいでしょう。
あの方なら、そのくらいのことは容易いはずです」
「……そういうことなら、すぐにでも会いに行ってみましょうかね」
「ではボスからの伝言は確かに伝えましたよ。私はこれで……」
そう言うとフードを深く被った謎の人物は、早々にその場から去っていった。
……行ってしまったか。
風のように来て風のように去る……。無駄なことは言わない。
組織の使いの者は相当優秀なようだ。
◇
「……あの、どうされました?先ほどの方は」
「ちょっと急な用事が入っちゃいましてね」
「そうなんですか」
「これから、その……。そうだ、この国の神官に呼ばれてるんですよ。
だから俺一人で行かなくちゃならないんです」
「神官様に?ぜひ私もお会いしたいですね。
クロアさんの護衛としてお供致しましょう。よろしいですか?」
「そうですか……?」
ミルさんを連れて行って大丈夫かな?
メーティスさんは仮にも組織と繋がりがある人なんでしょ?
さっきの話を聞く限りだと、組織を嫌ってそうだったが。
どうしたものか……。
「……同じ部屋に入るのがだめなら、廊下でも外でも待っていますので。
時給分はぜひ働かせてください」
「時給分……」
結局お金のためか……。まあわかっていたことだけど。
……でもここで変に断っても意味はないか。
どうせいつか俺が組織に関わりがあることを、話さなければならないわけだし。
「……じゃあ、一緒に行きますか。場所も聞きたいですし」
「ところでこれからどこに行くんですか?」
「シークスフィア協会明国本部の別館……ですよ」
「そうでしたか……」
「何か問題でも?」
「いいえ、クロアさんはこの国の事情は……知らないんですよね」
「そうですね、ほとんどわからない状態です」
「じゃあ少し、説明を致しましょうか」
それからクロアは、ミルから明国についての説明を受けた。
どうやらシークスフィア協会明国本部は五つの建物に分かれていて、
大神官がいるとされるひと際大きい本部と、四つの別館で構成されているらしい。
そこに入るには例え別館でも手続きが相当厳しく、基本的には神官しか入ることができない。
それぐらい神聖な場所ということだった。




