ピロティの街
「……どこってここは私の故郷、風国のピロティの街じゃないの」
「じゃないのって知ってる風に言われても」
なんか街の名前が独特だなあ。
「え?神官なのにそんなことも知らないの?有名な街なのに」
「風国の街は一つも知らないですよ」
「じゃあ今すぐにでも覚えてね。風国のピロティ」
なんだか覚えやすい発音の街だな。
「……それでなんでこんなところに俺はいるんですか?」
「大丈夫。兄が気絶しているクロアを優しくここまで運んでくれたんだよ」
「そうですか……」
それはそれで、なんだか複雑な気分だな。
「それでね、クロアは神官になったでしょ?
その権力を使って、私たちに協力してもらいます」
「何故それを俺が?……素直に協力するとでも?」
「え?してくれないの?」
「しなかったらどうなる?」
「秘密を全部ばらしちゃう」
「……別にいいですけど」
「そんな、ここまで来て協力してくれないの……?」
「いや、でも冷静に考えたら……。困るかも」
「でしょ?命令には素直に従ったほうがいいよ。意外と怖いんだからミスティックは」
「ところでみんなは無事なんですか?
確かあの時、俺の黒い炎の力で爆発したような気がしたんですけど」
……あの二人はともかく、ミアちゃんが一番心配だな。
「そりゃあ無事でしょ。あの爆発で軽いけがはしているかもだけど。
ボスはそんなことをする人ではないしね。でもそこまで覚えているんだね?」
「そうだといいんですけどね。覚えてるといっても、記憶の断片しか無いですよ」
「さすがにそうだよね……」
「そう言えば……。ミスティックの一員になった理由、聞いてもいいですか?」
「それは……。そうだなあ、何だか恥ずかしいからまた今度ね」
「恥ずかしいの?」
「うん……」
急に真面目になるのやめてね?
◇
「そうだ、もうちょっとしたら出かけなきゃ。今日はクロアも私と一緒に行くんだよ?」
「どうやら仕方ないようですね……」
本当はすぐにでも戻って、この世界で優雅に暮らすか、元の世界に戻るか、とか……。
ゆっくり考えるところだったのにな。帰るのがまた伸びてしまったか。
「ねえ、今さ……。何か考えてみて」
「え?なんで?」
「いいから、いいから」
クロアは適当なことを、頭の中で考えた。
「ふーん……。なるほどねえ」
「まさか俺に能力を?」
クロアは青☆目視を発動して能力を見破った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
青☆体感視
物などの感覚を、見ることで自分が感じ取れる。力があるほど正確にわかる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「これって俺の感覚を共有したってことか?人間にも有効なの?」
「さあ、どうでしょうな」
「なんて恐ろしい能力なんだ」
「やめてよ、人に向かってそんなこと言うの」
まだまだ知らない能力があるから、もう少し勉強しなければな。
結局約束の占いの書上級も読めず仕舞いになっちゃったし。まだ上級者というにはほど遠いか。
でもそれよりも黒☆ガードが今回発動しなかったな。なんでだ……?
「……それで今日はどうするんです?」
「普通に占い師の仕事だよ?クロアもそれに同行するの。
別にミスティックの一員だからといっても、普段は普通に生活するんだよ」
……思えば、ちゃんと人を占ったことそんなにしてこなかったな。
本来の占い師としての、人の相談を受けるみたいなこと。
まあこの世界では占い師が、もはやその枠を超えて色んなことをしているわけだけど。
「……着替えてきて?神官の服に。上の階のクローゼットに入っているはずだから」
「手回しがいいんですね」
「そりゃあ、わかっていたことだからね」
わかっていたこと、か……。
クロアは二階に上がり、神官の白く輝く服に着替えた。
◇
「うん、威厳があって大変よろしい。……じゃあこれを使ってっと」
「普通にカギ持ってるんじゃないですか」
「外に出て自由にはなるけど、逃げ出さないでね?お願いだよ?」
「もしはぐれたら?」
「もし逃げ出したら……。地下の牢屋に入れられちゃうの。そんなの悲しいでしょ?」
「うっ、思い出したくもない記憶が……」
「だから馬鹿なことはやめて、素直に言うことを聞こうね?」
く……。これ以上操り人形のように動かされてたまるか。
何か打開策を考えなくては。何か使える能力は無かったっけ……?
◇
二人が家の扉を開けて外に出ると、美しい街並みが眼前に広がっていた。
「どう?ピロティの街並みは」
「……色々なものがうまく調和している感じで、建物も芸術的センスが伺えますね」
「何だかそこまで褒めてくれると……嬉しいかも」
「でも……。明るくて、綺麗すぎて、逆に怖いところもありますね」
「そんなこと言わないでよ、みんなの努力のたまものなんだよ?」
「そうですか……」
「あら……。アイちゃん、今日もお仕事なの?」
その辺のおばちゃんが話しかけてきたな……。
青い服着てるよ……。
「そうですよ。でも今日は良い一日になりそうです」
「あら、そちらの方は……」
「どうも……」
クロアは軽くお辞儀をした。
「神官様……!ああ、お目にかかったことのない、素敵な白の神官様だわ!」
おばちゃんはクロアを見て、驚きながら大きな声で言った。
「よ、よろしくお願いします」
するとおばちゃんの大声によって、人が続々と集まってきた。
「……ここに神官様が居られるぞ!」
「見たことのない、新しい神官様だ!白く輝いておられる!」
人が人を呼び、辺りはどんどん混雑していった。
……お願いだから、もう人を呼び寄せないでくれ。
それにしても青い服の人ばっかりだな。
「すいません、今急いでるんで」
「どうか握手だけでも」
「俺の運勢を少しでもいいので変えてください。お願いします。神官様!」
「すいません、用事があるならシークスフィア協会を通じて申請をしてください」
ビアさんの断り方をここで真似することになるとは……。
「クロア、こっちだよ。早く行こう」
リンはクロアを咄嗟に連れ出した。
◇
リンとクロアは人ごみを掻き分け、あまり人がいない通りに移動した。
「はあ……。どうにも神官は慣れませんね」
「神官様、運勢を変えてください。お願いします」
リンは先ほどの人の真似をしながら言った。
「もう、悪ふざけは止めてくださいよ」
「いや、実際本当に思ってるし……」
「用事があるなら協会を通じて申請をしてください、か……」
「……結局それを言うしかないよね」
「今ならビアさんの気持ちもわかりますよ」
「でも、なりたかったんじゃないの?」
「別にそこまででは無かったですよ。なんか流れでなってしまったというか。
……ところでこれ脱いじゃだめですか?」
「今はその権力の力を使う時だからね……。用事が終わるまでは絶対に駄目だよ」
「みんな青い服なのに、白く輝いてる俺は浮いちゃうので……。
このままだとまたすぐに見つかりますよ」
「用事が終わったらさ、兄の青い服貸してあげるから。それまで我慢してね」
「ロルドさんのおさがり?」
「そうだよ」
「……自腹で新品の青い服を買うことにする」
「ああ、そう……」