恋人の設定でもいい?
「ところで今からどこに行くんですか?」
「占いの館だよ」
「館?」
「ほら、ここから北の方向に進んだらあるの。そんなに遠くないよ」
「そんなもの見えませんけど」
「もう少し歩いたら見えてくるはずだよ」
「……そういえば、あの功国の一番北の国境から、この街までどのくらいの距離があるんですかね?」
「そんなに離れてないよ。
功国の北にある大きな国境検問所は四つの国に繋がっているんだけど。
そこを西に行けば風国に入れるの。それから数時間西に行けば、この街に着くんだよ」
「そうなんですか……。情報ありがとうございます」
この辺の地理は地図で見ただけだから、この情報はありがたい。
「私、ちょっと喋りすぎちゃったかな?」
「そんなことはないと思いますよ?」
「情報料」
「え?」
「今のは情報料がいる、深い内容だったでしょ?」
「まあ、確かにそうかも……?じゃあ、はい」
クロアはリンに少量の硬貨を手渡した。
「素直でよろしい。でも……。まさか逃げ出そうとか考えてるんじゃないよね?」
「そんなバカな。もう地下牢はコリゴリですよ。
……それに捕まらなくても、組織にずっと追われる身になるなんてのも嫌です」
「そうだよね。それを聞いて安心したよ。じゃあ占いの館へ行こう」
◇
二人は歩き続け、ようやく占いの館にたどり着いた。
クロア達の目の前には、とても大きく派手な装飾が施された館が、その姿を見せた。
その建物は縦に伸びているのではなく、横に広がっているように見えた。
これは館じゃなくて、どう見ても大きなお城でしょ。
「どう?占いの館は。この国有数の人気施設なんだよ」
「これってどう見てもお城ですよね?」
「何言ってるの?館でしょ?もしや初めて見たの?クロアは」
もはやこの世界の大きな建物は、全部西洋のお城に見えるんだけど。
もう全部城と言っていいんじゃないの?それとも俺の目が節穴なだけ……?
「この豪華さと、考えられて作られた洗練されているフォルムは……。
どう見ても館だよね」
「ごめん、全然わからないよ」
◇
リンが青い正面の大きな扉を開けると、明るい内装がお披露目された。
……中はやっぱり派手派手なのか。
占いの館は占い師それぞれが対応する持ち場が点々と存在していて、
功国の占いの塔を彷彿とさせる館内だった。
「……今日は特別な人を連れてきたよ」
リンがそう叫ぶと、二人の占い師が一斉にクロア達のほうに振り向いた。
風国の占い師達かな?
「誰?」
「功国のね……」
「神官様か」
「すごいね、どうやって連れてきたの?」
「あのね、それは……」
「ちょっとリンさん」
クロアはリンに小声で囁いた。
「あの、俺のこと自慢げに言ってますけど……」
「え?自慢しちゃダメだった?」
「限度がありますよ、私すごいでしょ?みたいじゃなくて……控え目でお願いします」
「えー、でも……」
でもちやほやされるのは悪い気はしないけど……。
◇
「……紹介するね。私の占い師仲間のレナーテちゃんとエミール君だよ。
二人はまだ占い師二年目の新米なんだよ」
「どうも、白の神官のクロアです」
「青占い師のレナーテです」
「青占い師のエミールです」
二人はクロアに丁寧に挨拶をする。
この相手を探るような挨拶も久しぶりだな。
しかしこの二人、バッチリメイクをしているのか……。
「ところで二人は……」
「あの、色々と質問があるんですけどいいですか……?」
「あの唐突に失礼ですが、クロア様はチェンジを使えますか?」
チェンジ……。
神官はチェンジを使えるかどうか、聞かれたら答えなければならない。
そういう決まりがあったような……?
「はいはい、二人ともちょっと待ってね。
あのね、この人は最近神官になったばかりで、しかも蛇の国の辺境の、
子供が数人しかいない寂れたちっぽけな村にいたから、なーんにも知らないの」
そこまで詳しく設定されたか。なんだか言いすぎな気もするけど?
「……じゃあ、それでどうやって神官になれたんです?」
明らかに二人の俺を見る目が変わってるよ?なんだか視線が痛い。
言い過ぎだったんじゃ?
「それはね……」
「それは……?」
「……っとここでクイズです。
クロアが神官になれた理由、果たしてそれは何でしょうか?」
ここで調子に乗って、そんな茶番を始めるのはやめようね?リンさん。
「うーん……」
真面目に考えなくていいよ?レナーテちゃんだっけか?
「そんなの答えは簡単ですね。実力があったんですよ。
秘められた才能や能力があったんです」
うん、いい線言ってるんじゃないの?エミール君は。
「……すごいオリジナル能力を持っていた。
でもそれを今まで誰にも気付かれないように隠していた。
最近の黒い噂の事件が起きた時に、人を助けてようやく彼は認められた」
すごいストーリー調で話してくるね?
才能あるんじゃない?レナーテちゃんは。
「うーん……多分どちらも正解。だからこそ村から出てからすぐに神官になれたんだ。
でも世間知らずだから色々教えてあげてね?」
まさかこれ、何を言われても正解にする気だったんじゃないの?
それに俺、人を助けたことあったっけ?
しかしこの状況はなんだか……。したことないけど転校生の気分だよ。
「あの、アイさんは神官様とは一体どういうご関係なんですか?」
リンさんが俺に馴れ馴れしくしてるせいで、二人が若干引いてるように見えるよ?
「そうだね……。ちょっと待っててね」
リンはクロアを、部屋の端のほうに連れ出した。
二人はひそひそ声で会話した。
「どうしようか……?」
「え?」
「ここは……私とクロアが恋人の設定でもいい?」
「は?」
「ここまで馴れ馴れしく接しちゃったからさ、もうそれしかないかなって……」
「それは……」




