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すべてを後ろに残して――便利屋だった私が、自分の人生を取り戻すまで  作者: 朝山 みどり


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06 万年当番

06 万年当番


その翌日はマリサがおじい様の世話をする当番だった。


形ばかりとはいえ、家族は交代でおじい様の様子を見ることになっている。もっとも、ほかの者たちは部屋をのぞき、二言三言声をかければ、それで当番を果たしたつもりになっているが……


結局、身の回りの世話をするのは、いつもマリサだった。


おじい様の部屋の前まで来たマリサは、扉に手をかけたところで動きを止めた。


開けなくても、中の様子はわかった。


弱々しい呼吸。濁った空気。そして、死期の迫った者だけがまとう、重く沈んだ気配。


覚悟していたはずなのに、胸の奥が締めつけられた。


「おじい様、入りますね」


返事はなかった。


静かに扉を開けると、寝台の上でおじい様が眠っていた。頬はすっかりこけ、閉じた瞼の周りには深い影が落ちている。


マリサはすぐにおじい様へ浄化の魔法をかけた。続いて寝具や床、部屋全体にも魔法を広げていく。


こもっていた病人特有の匂いが、少しずつ薄れていった。


「これで、少しは楽になるといいのだけれど……」


水差しを確かめ、乱れていた掛け布を直す。それから寝台のそばに椅子を寄せ、おじい様の手をそっと握った。


骨ばった手は、驚くほど冷たかった。


しばらくすると、おじい様の瞼がかすかに震えた。


「……マリサか」


「はい。今日は私の当番です」


安心させるように笑ったつもりだったが、うまく笑えたかどうかはわからない。


おじい様はマリサの顔を見つめると、かすかに口元を緩めた。


「当番だな。万年当番だ」


「そんなことは……」


「庇わなくていい。あいつらには思い知らせるから」


弱々しい声だったが、その目にはまだ皮肉げな光が残っている。


おじい様は苦しそうに息をつき、それでもマリサの手を握り返した。


「そんな顔をするな。あと少しだ」


「おじい様……」


「厄介者とお別れするだけさ」


冗談めかした言い方に、マリサは唇を噛んだ。


「そんなことを言わないでください。おじい様は厄介者なんかではありません」


「そう言ってくれるのは、お前だけだよ」


おじい様は満足そうに目を細めた。


「もう一度、マリサの顔を見ておきたいと思っていた。間に合ってよかった」


「お別れのようなことを言わないでください」


「別れだよ。わしにはわかる」


その言葉には、否定を許さない静かな確信があった。


マリサが何も言えずにいると、おじい様は扉のほうへ目を向けた。


「あいつら、家中をあさっているだろう?」


マリサの肩がわずかに揺れた。


「……ご存じだったのですか」


「自分の家のことだからな。まだ生きているというのに、金目の物や書類を探している。誰が何をもらえるのか、気になって仕方がないらしい」


自嘲するような笑みを浮かべてものの、おじい様の目には深い寂しさがあった。


「身内を信用できないとは、情けない話だ。だが、マリサがいてくれてよかった」


「私は何もしていません。ただ、おじい様のお世話をしただけです」


「その『だけ』を、誰もしなかった」


おじい様の言葉には怒りと悲しみがあった。


寝台で一人きりになっているおじい様を放っておくことなど、マリサにはできなかった。


「マリサ、よく聞きなさい」


おじい様の声がわずかに強くなった。


「あいつらに情けをかけてはいけない」


「情け、ですか?」


「わしがお前に渡したもので、復讐してよい」


思いもよらない言葉に、マリサは目を見開いた。



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