超絶天然エルフの市場破壊!? 伝説の素材は「可愛いお洋服」と交換で
超絶天然エルフの市場破壊!? 伝説の素材は「可愛いお洋服」と交換で
ポポロ・コーポの外、村の中央広場から聞こえてきたけたたましい騒ぎ。
私とギデオン様が慌ててアパートを飛び出すと、そこには信じられない光景が広がっていた。
「わぁ〜っ! ここは石ばかりで冷たいですね! もっと緑とお花でいっぱいにしましょう!」
「ストーーーップ!! ルナ、お願いだからもう魔法を使わないで! 村のメインストリートのアスファルトが全部お花畑になっちゃうから!!」
村長のキャルルちゃんが、涙目で叫びながら一人の少女の腰にすがりついている。
その少女は、最高級のシルクで編まれたふわふわのドレスを着た、透き通るような美しさを持つエルフだった。
彼女が一歩歩くたびに、硬い石畳を突き破って色とりどりの花が咲き乱れ、立派な街路樹がニョキニョキと生えていく。
「……あれは、世界樹の森の次期女王、ルナ・シンフォニアか」
ギデオン様が、私を背中に庇うように立ちながら渋い声で呟いた。
「知ってるんですか?」
「ああ。エルフ族の至宝であり、精霊と植物に愛されすぎた『歩く自然災害』だ。彼女自身に悪意は全くないのだが、善意で街を森に変えたり、貧民に純金を配って国家の経済を破壊したりするため、各国の首脳陣から最も恐れられている存在だ」
「えっ、そ、そんなすごい人がどうしてポポロ村に?」
私たちが唖然としていると、ルナと呼ばれたエルフの少女が、ふとこちらに顔を向けた。
そして、彼女の翠緑の瞳が、私……ではなく、私の隣にいるリーザちゃんとキュララちゃんの姿を捉えて、パァァッ!と輝いた。
「まぁ……っ! なんて、なんて可愛らしいお洋服ですの!?」
ルナちゃんは花畑を飛び越え、ふわりとした足取りで私たちの目の前までやってきた。
彼女の視線は、リーザちゃんの着ている『マリンスノーフリルワンピース』と、キュララちゃんの『ホーリー・タクティカル・フリルドレス』に釘付けになっている。
「わたくし、王宮で最高級のドレスはたくさん着てきましたけれど、こんなに心ときめくフリルやレースは初めて見ました! それに、布地から信じられないほど優しくて強い『守護の概念』を感じますわ……!」
「ふふん、いいでしょー? これはアタシの専属プロデューサー、リゼットちゃんのお手製なのよ!」
「そうですの! 世界で一番の服ですの!」
自慢げに胸を張る強欲コンビ。
ルナちゃんはハッとして私を振り返ると、私の両手をギュッと握りしめた。
「あなたが、この素晴らしいお洋服を作られたのですね! お願いします、わたくしにも! わたくしにも、こんなふうに可愛くてフリフリのお洋服を作ってくださいませ!」
「えっ? あ、はい! お洋服ならいくらでも作りますけど……」
「ありがとうございます! お代はこれで足りますでしょうか!?」
ルナちゃんは嬉しそうに微笑むと、自分の小さなポシェットから『ソフトボール大の純金の塊』をゴロゴロと五つほど取り出し、私の腕の中に押し付けてきた。
「じゅ、純金!? しかも総額で数億は下らない重さですよ!?」
「ストーーーップ!! ルナ、ポポロ村の市場経済を崩壊させる気!? リゼット、それ絶対に受け取っちゃダメ!!」
キャルルちゃんが顔面を蒼白にして、ダブルトンファーで純金の塊を弾き飛ばそうとする。
「も、もちろん受け取れません! こんな大金、お洋服一着の代金としては多すぎます!」
「ええっ? でも、わたくし、今持ち合わせがこれくらいしかなくて……。あ、そうだわ! お金がダメなら、私の持っている『素材』と物々交換というのはいかがでしょう?」
ルナちゃんはコテンと首を傾げると、ポシェットの奥から、今度は『一巻きの糸』を取り出した。
それは、まるで月光そのものを紡いだかのように、淡く神々しい銀色の輝きを放っていた。
糸の束から溢れ出す、圧倒的で清浄な魔力。それを見た瞬間、私の後ろに立っていたギデオン様が「なっ……!?」と息を呑んだ。
「それは……エルフの秘宝、『世界樹の糸』……!?」
「はい! 世界樹様からお小遣いでもらったんですけど、わたくしお裁縫は得意じゃなくて。リゼット様、この糸をお譲りしますから、可愛いお洋服を作ってくれませんか?」
「『世界樹の糸』……!」
私は雷に打たれたような衝撃を受けた。
さっき、ギデオン様と「呪いを防ぐには世界樹の糸が必要だ」と話していた、まさにその神話級の激レア素材が、今、目の前にあるのだ。
「ル、ルナ殿! 本気で言っているのか!? それはかつて、大国が戦争を起こしてでも手に入れようとした伝説の……っ」
「あら、ギデオン公爵様。戦争なんて野蛮なことしなくても、女の子は『可愛いお洋服』のためならなんだって差し出しますわよ?」
ルナちゃんはクスッと笑うと、その光り輝く糸巻きを、私の手のひらにコロンと乗せた。
「リゼット様、この糸、お好きに使ってくださいね」
糸に触れた瞬間。
私は、自分の【神の裁縫箱】が「これ以上ない最高の素材だ」と歓喜の声を上げるのを感じた。
強靭でありながら羽のように軽く、どんな呪いや悪意も浄化してしまう圧倒的な生命力。
(これなら……! この糸を使えば、絶対に焦げない、ギデオン様のための最強の礼服が作れる……っ!)
「ルナちゃん……ありがとうございます! 絶対、絶対に世界一可愛いお洋服を作りますからね!」
「わぁい! 楽しみに待ってますわ!」
ルナちゃんと私が固く手を握り合う横で。
ギデオン様は、呆然とした顔で私を見つめていた。
「俺が……財産を投げ打って、国を動かしてでも手に入れようと考えていた至宝を……君は、ただ『可愛い服を作る』というだけで、あっさりと手に入れてしまったのか……」
彼はふらふらと歩み寄り、私の手の中にある『世界樹の糸』を見つめた。
その強烈な呪いの瘴気を発している彼が近づいても、世界樹の糸は全く黒ずむことなく、むしろ彼を浄化するように優しく輝いている。
「リゼット……君は、本当に奇跡のような人だ。俺の人生の暗闇を、たった数日で……こんなにも鮮やかに塗り替えてしまうなんて」
「奇跡じゃないですよ。私はただ、ギデオン様に似合う服を、妥協せずに作りたいだけです」
私が胸を張って答えると、ギデオン様は泣きそうな、けれどとても幸せそうな顔で微笑んだ。
「……ああ。君の作ってくれる服を心待ちにしている。君を、思い切りこの腕に抱きしめられる日を」
「ふふっ。任せてください! 絶対に後悔させない、最高の一着に仕立ててみせますから!」
激レア素材『世界樹の糸』は揃った。
採寸データも、型紙の構想も完璧だ。
私は急いでポポロ・コーポの自室に戻り、愛用のミシンの前に座った。
【神の裁縫箱】を開き、いよいよ『最強の礼服』の制作に取り掛かろうとした、その時。
『――ふざけるなッ! あの布屋の女が、化け物公爵をたぶらかして俺の領地をめちゃくちゃにしたというのか!?』
ポポロ村から遠く離れた闇夜の森の中。
全てを失い、借金まみれとなった元婚約者のアルベルトが、血走った目で金貨の詰まった袋を『闇ギルドの暗殺者たち』に手渡していた。
『殺せ! あの村ごと火の海にして、リゼットの腕を切り落として連れ戻せ! あいつの服さえあれば、俺はまた再起できるんだッ!』
私の平穏なお針子ライフと、ギデオン様との幸せな未来を脅かす、醜い悪意の影。
彼らがポポロ村に向け、無数の凶刃を忍ばせて進軍を開始していることなど、ミシンの前に座る私はまだ知る由もなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「ルナちゃん、相変わらずの市場破壊っぷりww」
「伝説の素材が『可愛いお洋服』で手に入った!」
「公爵様、ヒロインの奇跡にガチ惚れし直してるの尊い……」
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次回、ついに完成直前の最強礼服!
しかし、逆恨みした元婚約者の雇った闇ギルドがポポロ村を襲撃!?
リゼットを守るため、親友たちとギデオン様が立ち上がる……!
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