迫り来る悪意と絶対防壁。俺の命に変えても彼女の邪魔はさせない
迫り来る悪意と絶対防壁。俺の命に変えても彼女の邪魔はさせない
ダダダダダダダッ……!
ポポロ・コーポの一室には、リズミカルなミシンの音だけが響いていた。
「……ここは、肩のラインに少しゆとりを持たせて……でも、美しいシルエットは絶対に崩さないように……」
手元を照らすランプの灯りの中、私は完全に『ゾーン』に入っていた。
ルナちゃんからもらった激レア素材『世界樹の糸』。その月光のような銀の糸は、不思議なことにタローマンで買った最高級(といっても銀貨数枚の)黒い布地と、まるで最初から一つであったかのように滑らかに馴染んでいく。
(ギデオン様を、この腕で思い切りハグするために……)
その祈りだけを込めて、針を進める。
この服が完成すれば、彼はもう『呪われ公爵』などと呼ばれることはなくなる。誰の肌に触れても、誰と手を繋いでも、彼の大切な人を傷つけることはなくなるのだ。
それを想像するだけで、徹夜の疲れなど微塵も感じなかった。むしろ、ミシンを踏む足にはどんどん力がこもっていく。
その頃。
私が外界の音を完全に遮断し、服作りに没頭していた裏で。
ポポロ村の入り口には、禍々しい殺意と悪意が迫っていた。
◇ ◇ ◇
「行け! あの村を火の海にしてでも、リゼットの女を俺の元へ引きずってこい!!」
闇夜の森に、元婚約者であるアルベルトの狂気に満ちた声が響き渡った。
彼が全財産――いや、闇金融から莫大な借金をしてまで雇い入れたのは、ルナミス帝国の裏社会で恐れられる『闇ギルド』の暗殺者やならず者たちだった。
その数、およそ百。
手にはドワーフの密輸品である魔導銃や、凶悪な呪具が握られている。一介の農村など、数分で蹂躙できるだけの戦力だ。
「あいつの服さえあれば……あいつの服の防御力さえあれば、俺はまた貴族として返り咲ける! 公爵だか何だか知らないが、所詮は呪われた化け物! 数で押し切ればどうということはない!」
アルベルトは血走った目で、ポポロ村の灯りを睨みつけた。
だが。
彼らがポポロ村の境界である橋に足を踏み入れようとした、その瞬間。
「そこから先は、一歩も通さないわよ」
闇夜を切り裂くような凛とした声と共に、村の入り口に三つの影が立ち塞がった。
先頭に立つのは、月光を背に受けて愛用のダブルトンファーを構えた、ポポロ村村長のキャルル。
彼女の両脇には、フリルたっぷりの『ホーリー・タクティカル・ドレス』を着た天使族のキュララと、『マリンスノーフリルワンピース』を翻した人魚族のリーザが立っている。
「たかが小娘三人が、この闇ギルドの精鋭を止められるとでも思っているのか!? やれッ! 女どもを血祭りに上げろ!」
アルベルトが叫び、ならず者たちが一斉に魔導銃の銃口を彼女たちに向けた。
だが、少女たちは微塵も怯む様子を見せない。
それどころか、呆れたような、そして底冷えのするような冷たい笑みを浮かべていた。
「ふふん。たかが小娘? アタシたちが着てるこの服の『絶対防弾・防爆』の概念を舐めないでよね」
キュララは頭上のエンジェルリングを光らせながら、手にしたドワーフ製の対戦車魔導ロケットランチャー(RPG-17)を肩に担ぎ上げた。
「アタシたちの最強で最高のプロデューサー、リゼットちゃんはね。今、愛する人のために徹夜でミシンを踏んでるの! その神聖な睡眠時間(お仕事)を邪魔するゴミは、アタシがまとめて爆破してあげるわ!」
「そうですの! リゼットさんの幸せを壊そうとするなんて、万死に値しますの!」
リーザもまた、背中に背負った『お賽銭箱型掃除機』のノズルを構え、目を「¥」マークにギラギラと光らせた。
「お前たちみたいな底辺から巻き上げるスパチャなんて一円の価値もありませんけど、リゼットさんの邪魔をするなら、ステータスから運気から命まで、全部吸い尽くして差し上げますの!」
「そういうこと。うちの大切な村民の平穏を脅かす奴は、私が村長として……物理的に排除するわ」
キャルルがトンファーに闘気を込めると、彼女の足元の石畳がメリメリと音を立ててひび割れた。
闇ギルドのならず者たちが、少女たちの放つ異常な覇気と、明らかに規格外の魔導兵器を前に一瞬だけ怯む。
その時だった。
「――お前たちに、彼女の指先一本、いや、彼女の作った服の糸くず一本たりとも、触れさせはしない」
低く、絶対的な死の冷たさを孕んだ声が、森の空気を凍りつかせた。
ズシンッ、と。
キャルルたちの前に、一人の大柄な青年が歩み出た。
月光に輝く銀髪と、竜の角。
そして、彼が身に纏うのは、リゼットが徹夜で縫い上げた『スウェット』と『漆黒のコート』だ。
アバロン魔皇国の筆頭公爵、ギデオン。
かつては味方すらも腐敗させてしまうため、戦場では常に一人で戦うしかなかった孤独な化け物。
だが今は違う。
リゼットの作ったコートが、彼の呪いの瘴気を完全にコントロール下に置いている。だからこそ彼は今、大切な『仲間(女親友たち)』の隣に立ち、共に村を防衛することができるのだ。
「公、公爵……っ! 化け物め、お前がなぜこんな辺境の村に!」
アルベルトが恐怖に顔を引き攣らせながら後ずさる。
ギデオンはルビーの瞳を細め、静かに、しかし火山が爆発する直前のような圧倒的な殺意を放った。
「彼女は今、俺のために……俺の人生の暗闇を救うために、命を削って服を作ってくれている。そのミシンの音は、俺にとって世界で最も美しい音色だ」
ギデオンの手のひらに、凝縮された漆黒の呪いが球体となって集束していく。
「俺の命に代えても、彼女のミシンの音は止めさせない。貴様らの汚い悲鳴で、彼女の耳を穢すことなど絶対に許さん」
「ひぃっ……! う、撃て! 一斉に撃ち殺せェェェッ!!」
アルベルトの絶叫を合図に、百人の闇ギルドが魔導銃の引き金を引いた。
無数の魔弾と魔法が、夜の闇を切り裂いてポポロ村の入り口へと降り注ぐ。
だが、迎え撃つ少女たちと公爵の顔には、微塵の恐れもなかった。
なぜなら彼女たちは、リゼットの作った『絶対防御』の服を着ているのだから。
「さぁて、視聴者のみんな! 深夜の殲滅配信、いっくよー!!」
「Love & Money! 全財産、置いていきなさいですのー!」
「月影流……全開で行くわよ!!」
リゼットを守るため。
最強の女親友たちと、愛に狂った呪われ公爵の、圧倒的無双劇の幕が切って落とされた。
◇ ◇ ◇
「……ふぅ。よし、これで上着の縫製は完了っと」
私は一つ大きく伸びをして、完成した上着のシルエットを確認した。
外で何やら「ドガァァン!」という爆発音や、「全部吸い尽くしますのー!」という楽しそうな声が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。ポポロ村の夜はいつだって賑やかだ。
「あとは、これを完璧な『白銀のタキシード』に仕上げるだけ……!」
私は再び、熱いお茶を一口飲んでから、ミシンに向かい合った。
ギデオン様の喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、手首の疲れなんてどこかに吹き飛んでしまうのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「親友たち、頼もしすぎるし怖すぎるww」
「公爵様が仲間と一緒に戦えてるの、服のおかげでエモい!」
「リゼットちゃん、外の地獄に全く気づかずミシン踏んでて草」
と少しでもワクワクしていただけましたら、
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次回、圧倒的無双劇と過激な配信ライブ!?
そしてついに、リゼットの部屋から神々しい光が漏れ出す……!
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