呪縛からの解放。そして『白銀の貴公子』が誕生する
呪縛からの解放。そして『白銀の貴公子』が誕生する
「……分かった。君の奇跡を、俺の全てを懸けて信じよう」
ギデオン様は大きく深呼吸をすると、私が差し出した『白銀のタキシード』の袖に腕を通した。
彼が肩を通し、前を合わせたその瞬間。
タキシードは、彼の鍛え抜かれた肉体に吸い付くように完璧にフィットした。広い肩幅から引き締まった腰へと続く美しいドレープ、首元に沿う流麗なライン。パタンナーとしての私の計算が、1ミリの狂いもなく実を結んだシルエットだった。
だが、真の試練はここからだ。
彼の体内に数十年間封じ込められ、抑圧され続けてきた『呪い』が、新しい服(未知の強力な魔力)に対して凄まじい拒絶反応を示し、一気に暴走を始めたのだ。
「ゴォォォォォォォォォォォォッ!!!」
ギデオン様の全身から、これまでとは比較にならないほど濃密でドス黒い瘴気が間欠泉のように噴き出した。
それは漆黒の竜巻となって彼自身を飲み込み、ポポロ・コーポの部屋中をたちまち真っ黒に染め上げようとする。
「ギデオン様!」
「くっ……離れろ、リゼット! 俺の呪いが……っ!」
「大丈夫です! 絶対に離れません!」
私は一歩も引かなかった。
なぜなら、私が命を削って縫い上げた服が、彼を苦しめる呪いなんかに負けるはずがないからだ。
漆黒の瘴気が、タキシードの表面に触れようとした瞬間。
カッ…………!!!!
タキシードに縫い込まれた『世界樹の糸』が、太陽のように眩い白銀の光を放った。
【神の裁縫箱】によって付与された『絶対保護』と『状態異常無効』の概念が、物理的な光の防壁となってギデオン様を包み込む。
「シュゥゥゥゥゥゥゥッ!!」という凄まじい浄化の音を立てて、黒い瘴気が白銀の光に触れる端から浄化され、キラキラと輝く無害な光の粒子へと変換されていく。
黒の呪いと、白銀の祝福。
二つの圧倒的な魔力が激しく拮抗する。だが、その拮抗はほんの数秒で終わった。
白銀の光が、呪いの根源にまで優しく、けれど絶対に逃がさないほどの強さで浸透し、ギデオン様の魂を蝕んでいた数十年来の呪縛を、根こそぎ洗い流していったのだ。
やがて光がフワリと収まり……部屋には、雪のように舞い散る光の粒子だけが残った。
「……あ……」
ギデオン様は、自分の両手を顔の前に掲げたまま、呆然としていた。
いつもなら、少しでも感情が昂れば指先から黒いモヤが漏れ出していた。だが今は、どれだけ強く息を吸い込んでも、何も出てこない。
「ギデオン様、手袋を……外してみてください」
私の声に、彼はハッとして、おそるおそる黒い革手袋を外した。
現れたのは、色白で、長く美しい指先。
彼はその手を、近くにあった木製のトルソーにそっと触れさせた。
いつもなら一瞬で腐食して崩れ落ちるはずの木が……全く、何の変化もない。
「呪いが……消えた……?」
「完全に消え去ったわけではないかもしれません。でも、この『白銀のタキシード』を着ている限り、あなたの呪いが外に漏れ出すことは絶対にありません。それに、服の浄化作用で、いずれあなた自身の体質も完全に元に戻るはずです」
私は彼の手を引き、部屋に置いてある姿見(全身鏡)の前へと案内した。
「見てください、ギデオン様」
鏡に映っていたのは、もはや『呪われ公爵』と忌み嫌われた化け物の姿ではなかった。
月光を反射する艶やかな銀髪。白銀のタキシードを完璧に着こなし、その気品ある佇まいは、まるでおとぎ話の中から飛び出してきた王子のようだった。
頭に生えた竜の角すらも、今は白銀の光を帯びて、彼という存在の美しさを際立たせる神々しい装飾品のように見えた。
「これが……俺……?」
「はい! 似合ってます! 世界一、かっこいいです!」
私が満面の笑みで告げると、ギデオン様は鏡の中の自分を見つめ、やがてポロポロと涙をこぼし始めた。
「俺は……俺はついに……呪いから……っ」
「す、すごいですの……!」
背後で見守っていたリーザちゃんが、鼻血を押さえながら震えている。
「今の公爵様の姿を配信で流したら、世界の経済が狂うほどのスパチャが飛び交いますの! まさに歩く国宝、顔面世界遺産ですのーっ!」
「ちょっとリーザ、勝手に配信回しちゃダメよ! でも……確かに、これならアバロン魔皇国の筆頭公爵として、どんな夜会に出ても恥ずかしくないわね」
キャルルちゃんも腕を組みながら、感嘆のため息を漏らす。
ギデオン様は、自分の顔の涙を拭うと、ゆっくりと私の方に向き直った。
その紅玉の瞳には、かつてないほどの強烈な光と、熱が宿っていた。
「リゼット」
彼の声は、歓喜と、そして抑えきれない情熱に震えていた。
「君は……本当に、俺の人生のすべてを救ってくれた。俺に光を、温もりを、人としての尊厳を……全てを与えてくれた」
「ふふっ。私はお針子として、お客様に最高の服をお届けしただけですよ」
私が照れ隠しに笑うと、ギデオン様は一歩、私に近づいた。
「もう、呪いを恐れる必要はないんだな?」
「はい。その服が、あなたを完璧に守ってくれていますから」
「誰に触れても……君に触れても、服が焦げたり、君を傷つけたりすることはないんだな?」
「はい。……えっ?」
ギデオン様の雰囲気が、急に変わった。
今までのような、オドオドとした、触れることを極端に恐れる大型犬のような態度は消え去り。
そこにあるのは、長年飢え続けてきた『獲物』をようやく手に入れた、肉食獣(竜)のような、圧倒的で雄弁な瞳。
「リゼット。俺は君に約束したはずだ。最高の礼服が完成するまで……『ハグはお預け』だと」
「あ、えっと……そ、そういえば、そんな約束を……」
私は急に心臓がドクドクと鳴り始め、後ずさろうとした。
だが、背中はすぐに壁に当たってしまった。逃げ場はない。
「ギ、ギデオン様……?」
「待てと言われて、俺はずっと耐えてきた。君のそばにいて、君の優しさに触れるたび、俺がどれほど君を……この腕のなかに閉じ込めたかったか」
彼がゆっくりと、両腕を広げる。
その動作には、もう何の躊躇いも、恐怖もなかった。
あるのはただ、私への限界を突破した、重すぎるほどの愛情だけ。
「覚悟はいいか、リゼット」
逃れられない甘い声が、私の耳を打った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「ついに呪いが解けた! 白銀の貴公子誕生!!」
「公爵様、今まで我慢してたぶん雄み(オスみ)が爆発してる……!」
「これは次回、とんでもないことになりそうww」
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次回、待ちに待った限界突破の「溺愛ハグ」!!
タローマンの安布では耐えられなかった公爵様の激重感情が、ついに大爆発します!
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