第97話:家庭教師の分析と、素材の力
楽しいお出かけの翌朝。
図書室の机の上には、職人街で手に入れた様々な種類の紙がずらりと並べられていた。
「……なるほど。『霜降り草』の繊維を漉き込んだ紙ですか。オリカ様、素晴らしい着眼点です」
エリアス先生は青みがかった紙を光に透かし、指先で弾いて音を確かめながら、深く感嘆の息を漏らした。
机の下では、昨夜たっぷり甘え倒して満足したノワールが、気持ちよさそうに丸くなって寝息を立てている。
「昨日はとっさに蛙を折って、熱中症になりかけた男の子を助けたんです。火のマナの時はあんなに熱が暴走して大変だったのに、この紙は最初から冷気の波長とぴったり合っていて、すごく素直に魔力が通ってくれました」
「素晴らしい実践経験ですね。それこそが、紙という『触媒の適性』です」
先生は手帳を開き、羽ペンをさらさらと走らせた。
「火や熱のような攻撃的で拡散しやすいマナは、一般的な紙では反発が起きやすく、二重結界のような高度な制御が必要でした。ですが、この霜降り草のように『特定の属性を宿す植物や鉱物』から作られた紙であれば、素材そのものがマナの緩衝材となってくれるのです」
「緩衝材……! じゃあ、紙の原料を変えれば、もっと複雑な魔法も安定して使えるようになるってことですか?」
「その通りです。オリカ様が以前から施している【絶対不壊・元素無効】の錬金術に、素材本来の属性適性を掛け合わせれば、消耗も少なく、より強力で安全な魔導折り紙が完成します」
先生の言葉に、私の頭の中で前世の知識とこの世界の魔導理論がカチリと音を立てて噛み合った。
(そっか……ただ硬い紙にするだけじゃなくて、用途に合わせて素材からデザインしていくんだ。まるで、目的に応じてプラスチックや金属を使い分ける工業製品みたい……!)
「よし、では本日はこの新しい紙を使って、冷気の持続性と安全性の検証から始めましょう」
「はい、先生!」
街での偶然の出会いから、私の魔導折り紙は『素材の錬金』というさらなる進化の扉を開こうとしていた。




