第98話:冷気の折り蛙と、保冷の魔法陣
エリアス先生が机の上に小さな魔導計測器を置いた。
温度や魔力の放出量を測るための、水晶が埋め込まれた道具だ。
「昨日の折り蛙は、男の子のおでこを冷やすのに十分な効果を発揮しました。ですがオリカ様、冷気の効果がどれくらい持続するかは確認できていませんね?」
「あ……そういえば、男の子が元気になってお母さんと帰るのを見送ったので、何分くらい冷たさが続くのかまでは分かりませんでした」
「ええ。人助けの現場としては満点でしたが、魔導具としての実用化を目指すなら『持続時間』と『冷却強度の安定』を突き詰める必要があります」
先生の言葉に、私は深く頷いた。
確かに、真夏の炎天下ですぐに温まってしまっては実用性に欠けるし、逆に冷えすぎて凍傷を起こしても危険だ。
私は青い『霜降り草の紙』を広げ、まずは錬金術で【絶対不壊】の耐久性を付与する。
さらに今回は、前回の火の小鳥で学んだ『二重構造』の応用を取り入れてみることにした。
(冷気をただ溜め込むんじゃなくて、大気中の熱を適度に遮断しながら、冷気を一定のペースでじんわり放出し続ける仕組み……)
紙の表面に微細な循環の回路を錬金術で描き込み、丁寧な手つきで小さな蛙を折り上げていく。
仕上げに大気中の冷気マナをごく少量、回路の起点へと流し込んだ。
ピリリ……。
青い折り蛙の背中に、淡い銀色の紋様がふわりと浮かび上がる。
手の平に乗せると、ヒヤッとした心地よい冷感が、まるで保冷剤のように安定して伝わってきた。
「……計測器の針が一定値で静止していますね。急激な温度変化を起こさず、約十度前後の冷気を周囲に留め続けています。素晴らしい安定度です」
先生が計測器の水晶を覗き込み、感嘆の声を漏らした。
「これなら、夏の熱中症予防はもちろん、お肉や野菜、傷みやすい薬の保存にも使えますね!」
「ええ。氷の魔導具は高価で庶民には手が届きませんが、紙一枚でこの保冷効果が続くとなれば、領内の物流や医療にとっても革命的な品になりますよ」
机の下からひょっこり顔を出したノワールが、涼しい風に誘われて折り蛙に鼻先を近づけ、『くしゅん!』と可愛らしくくしゃみをした。
「ふふ、ノワールにはちょっと寒かったかな?」
失敗から学び、素材を活かし、安全で役立つ形へ。
私の小さな折り紙が、少しずつ世界を便利にする力を宿し始めているのを実感した。




