第99話:料理長の歓喜と、魔導保冷箱
安定した冷気を放ち続ける『保冷の折り蛙』を手に、私は屋敷の地下にある大厨房へと向かった。
この素晴らしい効果を一番実感してくれる人に、ぜひ試してもらいたかったからだ。
「ハインツさん、こんにちは!」
「おや、オリカお嬢様! こんな油煙の立ち込める場所へどうされたのですか?」
丸々とした体格に立派な口髭を蓄えた料理長ハインツさんが、慌ててエプロンで手を拭いながら駆け寄ってきた。
厨房では、今夜の晩餐会に向けた仕込みの真っ最中で、大きな氷塊を浮かべた水桶の周りに料理人たちが集まっている。
「実はこれ、ハインツさんに使ってみてほしくて持ってきたんです」
私は手の平に乗せた青い折り蛙を差し出した。
「……折り紙、ですかい? 可愛らしい蛙ですが……おや?」
おずおずと受け取ったハインツさんの目が、驚きに見開かれる。
「こ、これは……冷たい!? 氷のようにヒヤリとするのに、水滴一つ垂れてこねぇぞ!」
「はい! 霜降り草の紙に冷気のマナを閉じ込めて、ずっと冷たさが続くように工夫したんです。傷みやすい食材の箱に入れてみてください!」
ハインツさんは半信半疑のまま、港から届いたばかりの新鮮な魚が収められた木箱に、青い折り蛙をそっと忍ばせた。
木箱の蓋を閉めて数分。再び開けた瞬間、箱の中からふわりと冷涼な白煙が立ち上った。
「す、すげぇ……! 氷が解けて魚が水浸しになることもねぇし、箱の中全体が均一にキンキンに冷えてやがる! これなら王都から仕入れた極上の乳製品も、夏場に腐らせずに完璧な鮮度を保てるぞ!」
料理長は大興奮で叫び、厨房の料理人たちも息を呑んで木箱を覗き込んでいる。
「お嬢様、こいつは料理人にとって夢のような宝物ですぜ! 氷室の氷を削る手間も省けるし、何より食材の味が落ちねぇ!」
「ふふ、喜んでもらえてよかったです!」
満面の笑みを浮かべるハインツさんを見て、私の胸は誇らしさでいっぱいになった。
誰かの役に立ち、生活を豊かにする魔法。
机の上の理論だけではない、魔法の本当の価値を肌で感じた瞬間だった。




