第91話:お父様の手と、カイロの小鳥
二重結界構造による『ぬくもりの折り鳥』の成功。
この素晴らしい成果を誰よりも早く伝えたくて、授業が終わるやいなや、私は完成した赤い小鳥を手にお父様の執務室へと向かった。
トントン、と扉をノックする。
「お父様、オリカです。入ってもいいですか?」
「オリカか! 入りなさい!」
中から聞こえたのは、公爵としての威厳をかなぐり捨てたような弾んだ声。
扉を開けると、山積みの書類を放り出してお父様が机から立ち上がり、足早に駆け寄ってきた。
「手はもう痛まないか? やはり昨日の今日だ、無理に勉強などせず安静にしているべきでは――」
「ふふ、お父様、見てください! 痛くないどころか、大成功したんです!」
心配性全開のお父様の手の平に、私はそっと赤い小鳥を乗せてあげた。
「む……? これは……」
お父様の大きな手の平の上で、小鳥の胸元がポッと橙色に灯る。
昨日テラスを騒然とさせた猛烈な熱気は微塵もなく、執務で冷え切っていたお父様の指先を、陽だまりのような優しいぬくもりがじんわりと包み込んでいく。
「温かい……。熱が暴走することなく、心地よい温度で完全に保たれているのか」
「はい! 紙の表と裏で術式を分けて、外には優しい温もりだけが伝わるように工夫したんです。これならポケットに入れて、いつでも手を温められます!」
胸を張って説明する私を、お父様は感嘆に目を見開いて見つめたあと、ふわりと目尻を下げた。
「……昨日の失敗を、わずか一日でこれほど見事な形に昇華させるとはな」
お父様は小鳥を大切そうに両手で包み込み、もう片方の手で私の頭を優しく撫でてくれた。
「日夜領地のために働く者たちや、冬の警備にあたる兵たちにとっても、これ以上の救いはない魔導具になる。オリカ、お前の魔法は本当に人を幸せにする力を持っているな」
「お父様……!」
ただの失敗で終わらせず、誰かの役に立つ形にできたこと。
お父様の誇らしげな笑顔と言葉が、何よりのご褒美となって胸に染み渡るのだった。




