第89話:灯火の小鳥と、大パニック!
「風のマナが扱えたなら、次は少し性質の違う『火(熱)のマナ』に挑戦してみましょう」
中庭の木陰で、エリアス先生が赤い魔導折り紙を机の上に置いた。
「火のマナは風よりも気性が荒く、活性化しやすい性質があります。まずは指先をほんのり温めるくらいの、小さな灯火をイメージしてみてください」
「はい、やってみます!」
私は赤い折り紙を手に取ると、折る前にそっと錬金術で加工を施した。
火で炙っても絶対に燃えない【絶対不壊・元素無効】の耐久性を紙自体にしっかりと定着させる。
これで準備は万全だ。私は小さな『小鳥』を丁寧に折り上げると、先生のアドバイス通り、ほんの一筋の火マナだけをそっと手繰り寄せた。
(まずはほんの少し……ろうそくの小さな火を灯すくらい慎重に……)
――だが、その瞬間。
カッ……!
(――っ!? 熱いっ!!)
火種に油を注いだかのように、大気中の火マナが一瞬で紙へと連鎖して流れ込んできた。
7歳になって広がった魔力の器に引き寄せられ、私の意志を超えて熱が一気に膨れ上がったのだ。
錬金術のおかげで紙自体は燃えずに無傷のままだが、表面がまるで焼きゴテのように真っ赤な超高熱を帯び、思わず「あちっ!」と小鳥を手放してしまった。
ジュッと指先が焼けるような痛みが走る――けれど次の瞬間、私の【即時超回復】スキルが発動し、赤みも痛みも一瞬で何事もなかったかのように消え去った。
(ふう、よかった……って、あれ!?)
「オリカっっ!? 今、手が赤くなったよね!? 氷! 誰か氷魔法の使える魔導士を呼んで!!」
テラスの近くで見守っていたお兄様が、血相を変えてすっ飛んできた。
「オリカ、怪我はないか!? すぐに救護班を手配しろ! 公爵家の名にかけて最高の治癒師を呼ぶんだ!」
お父様まで立ち上がり、普段の冷静沈着さはどこへやら、部屋を揺るがす勢いで大号令をかけている。
お母様も青ざめてハンカチを握りしめ、ノワールまでもが『ふぎゃあぁっ!?』と大慌てで私の周りをグルグル回り始めた。
「だ、大丈夫です! お兄様、お父様! ほら、見ての通りなんともないですからっ!」
慌てて両手をパタパタと振って見せる私。
一瞬で治ったところを見られたら大騒ぎどころでは済まないため、必死の笑顔で誤魔化す。
「本当に痛くないかい……? 少しでもズキズキしたら言うんだよ?」
お兄様がおそるおそる私の手を包み込み、何度も何度も確認する。
家族の過保護すぎる溺愛ぶりに冷や汗を流しながらも、私はテーブルの上に落ちた小鳥へと視線を戻した。
錬金術で強化された紙は燃えていない。けれど、周囲の空気が陽炎のように揺らぐほどの熱気を放ち続けている。
「……紙そのものは無事ですが、宿した熱が外へ暴走してしまっていますね」
エリアス先生が手帳を開き、真剣な眼差しで赤い小鳥を観察していた。
「火のマナは一度呼び込むと、周囲の熱を巻き込んで自己増殖しやすい性質があります。オリカ様が慎重に扱おうとしても、器の大きさに引きずられて暴走してしまうようですね。外に漏らさず『内側に閉じ込める断熱の制御』が必要です」
「……はい。でも、絶対に扱えるようになってみせます!」
家族の温かすぎる包帯攻撃(未遂)をくぐり抜けながら、私は初めてぶつかった『熱の制御』という課題に、メラメラとやる気を燃やすのだった。




