第88話:広がる可能性と、次なるステップ
テラスを舞う涼風の折り蝶は、誰が指示を出すでもなく、お茶会のテーブルの上を心地よいリズムで漂い続けていた。
私の体内の魔力はほとんど減っておらず、呼吸に合わせて自然なマナが蝶へと補給されている。
「所作の落ち着きがそのまま魔力の安定に繋がる……。ハルト先生、貴方の指導法には本当に目を見張るものがあります」
テラスのガラス扉が開き、そこへ現れたのはお父様とお母様だった。
執務の合間に様子を見に来てくれたらしく、穏やかな笑顔を浮かべている。
「ギルバート閣下、エレノア奥様。オリカ様自身の呑み込みの早さと、柔軟な発想力があってこその成果ですよ」
エリアス先生は立ち上がって礼儀正しく一礼した。
「ふふ、とても素敵な風ですわね。オリカ、お茶会での姿勢もすっかり淑女らしくなってきて安心いたしました」
お母様に優しく髪を撫でられ、私は嬉しさに頬を緩ませた。
厳しい詰め込みではなく、お茶やお喋りを楽しみながら学べたからこそ、緊張せずに身につけることができたのだ。
「さて、オリカ様。大気中の『風』のマナを折り紙に宿す感覚は、完全に掴めましたね」
エリアス先生が手帳に羽ペンでさらさらとチェックを入れながら、琥珀色の瞳をキラリと輝かせた。
「自然のマナは風だけではありません。土、水、火、そして植物に宿る生命のマナ……。それぞれの性質を理解すれば、折り紙の『形』と『属性』を組み合わせて、さらに多様な現象を引き出せるようになります」
「折り紙の形と、属性の組み合わせ……!」
鶴や蝶、風車といった形ごとに、どんな自然の力を宿せば一番効果的なのか。
ただの玩具だった前世の折り紙が、この世界の理と結びついて無限の可能性を広げていく。
『わふんっ!』
ノワールが私の膝に前足を乗せ、一緒に次の授業を受けたいとせがむように鳴いた。
(もっと色んな紙を折って、色んな自然の力と仲良くなりたい……!)
私の小さな胸に、魔法への尽きない探求心と情熱が力強く芽吹いていた。




