第86話:小さな課題と、お茶会の約束
中庭での成果をお兄様に褒められてホッとしたのも束の間、エリアス先生は手帳を開きながら、穏やかな口調で次の一歩を切り出した。
「大気のマナを循環させる感覚は、見事に掴めましたね。ですがオリカ様、風車の回転を維持する際、指先に少しだけ余計な力が入っていたのにお気づきでしたか?」
「あっ……そういえば、風が途切れないように指をぎゅっと固めていたかも……」
「ええ。自然のマナは水や空気と同じで、力んで塞き止めようとすると流れが乱れてしまいます。常に肩の力を抜き、リラックスした状態を保つことがこれからの課題ですね」
先生の的確な指摘に、私はこくりと頷いた。
無意識のうちに「成功させなきゃ」と気負っていた部分を見抜かれていたようだ。
すると、横で聞いていたお兄様がポンと手を打った。
「それならハルト先生、明日の午後はテラスでお茶会をしながら授業をするのはどうでしょう? 母上からいただいた特別なハーブティーがあるんです。リラックスしながらマナーと魔法の練習をするにはうってつけですよ」
「それは名案ですね、ルファス様。美しい所作でお茶を楽しみながら、自然体でマナを巡らせる……最高の応用練習になります」
『わふぅ!』
お茶会と聞いて美味しいお菓子を期待したのか、ノワールが目を輝かせてお兄様の足元に擦り寄る。
「ふふ、ノワールにもとっておきのクッキーを用意しないとね」
お兄様の提案に、私の胸は早くもワクワクで満たされた。
緊張しがちだったマナーのお勉強も、テラスでのお茶会なら楽しくクリアできそうだ。
(明日はもっと自然に、風と仲良くなってみせるぞ……!)
夕日に染まる屋敷の庭で、私は次の日のレッスンに向けて小さく拳を握りしめたのだった。




