第82話:魔力の器と、新しい目標
手の平に乗った折り鶴を見つめながら、エリアス先生は感心したように小さく息を吐いた。
「制御力、発想力ともに申し分ありません。ですがオリカ様、この素晴らしい魔法をさらに自在に扱うためには、大切な課題があります」
「課題……ですか?」
先生は机の上のガラス瓶にトントンと指先を当てた。
「オリカ様はまだ7歳です。魔力の質は非常に高いのですが、体を巡る魔力の『器』――つまり総量は、まだ成長途中の段階にあります。今は折り紙一枚動かすのにも、ご自身の魔力をそのまま注ぎ込んでいますね?」
「はい、自分の魔力を紙に移すイメージで動かしています」
「ええ。ですがそれだと、何枚も同時に動かしたり、遠くへ飛ばしたりした際に、すぐに魔力切れを起こして倒れてしまいます」
先生の言葉に、私はハッとした。
前世でも無理をして体力を使い果たせば動けなくなっていた。魔法の世界でも同じことだ。
「そこでこれからの授業では、三つの目標を立てて学んでいきましょう。一つ目は、大気中の魔力を味方につける『循環の技術』。二つ目は、学院の試験にも通じる『基礎教養』。そして三つ目は、公爵令嬢としての『品格あるマナー』です」
「マナー……!」
思わず声が上ずってしまった。
前世はごく普通の一般人だった私にとって、貴族の複雑な礼儀作法は未知の領域だ。
かつてお兄様が頭の上に本を乗せて歩いたり、何種類もあるカトラリーの使い方を叩き込まれていた猛特訓を思い出し、ちょっぴり背筋が寒くなる。
(うっ……魔法の研究は楽しそうだけど、マナーの特訓はかなり手強そう……!)
私が思わず身構えたのを察したのか、エリアス先生はくすりと優しく微笑んだ。
「ふふ、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。マナーは誰かに縛られるためのものではなく、大切な相手に敬意を伝え、自分を守るための『盾』ですから。楽しく身につけていきましょう」
「……はい! 先生となら、マナーのお勉強も頑張れそうです!」
「もちろんです。そして自然の魔力循環をマスターすれば、植物や風の力を借りて、より少ない魔力で驚くような効果を生み出せるようになりますよ」
私の不安をすくい上げ、前向きな力に変えてくれる。
頼もしい先生の言葉に、今度こそ私の目はキラキラと輝いた。
『わふっ!』
ノワールもしっぽを大きく振って応援してくれる。
(よし……6年後の学院入学に向けて、マナーも魔導折り紙も、全力でマスターするぞ!)
窓から差し込むあたたかな光の中、私の本格的な修行と学びの日々が、確かな一歩を踏み出したのだった。




