第79話:芽吹く好奇心と、先生の答え
「私がオリカ様に教えたいのは、知識を詰め込むことではなく『学ぶ楽しさ』と『世界を見る面白さ』です」
エリアスは飾らない、けれど芯の通った澄んだ声で答えた。
「公爵令嬢として必要なマナーや学院の試験対策はもちろん責任を持って指導いたします。ですが、それ以上にオリカ様が何に興味を持ち、どんな風に世界を広げたいのか……その歩調に合わせて、共に考え、並んで歩くような教育をしたいと考えております」
型に押し込めるでもなく、公爵家の権威に媚びるでもない。
オリカという一人の子どもと真摯に向き合おうとする言葉に、お父様とお母様は静かに視線を交わし、わずかに表情を和らげた。
「……なるほど。ではハルト殿、我が妹のこの魔法を見てどう思う?」
お兄様が促すと、私は机の上に先ほど咲かせた若草色の折り紙の花をそっと差し出した。
エリアスは膝をつき、目線を私と同じ高さに合わせて花をじっと見つめる。
「……これは驚きました。紙の繊維に魔力を均一に通し、詠唱なしで自然属性を定着させているのですね。紙の折り目一つひとつが、まるで魔法陣の緻密な術式の役割を果たしているようだ……」
頭ごなしに否定するどころか、純粋な知的好奇心と深い敬意を込めて、折り紙の構造を的確に見抜いてみせた。
「オリカ様、この素晴らしい発想と魔法は、あなたの宝物ですね。もし私がお教えできるなら、この才能を無理に変えるのではなく、より安全に、より豊かに咲かせるための基礎をお手伝いしたいです」
ふわりと微笑みかけるエリアスに、私の胸は温かな光で満たされていく。
『わふんっ!』
ノワールがエリアスの足元へ駆け寄り、嬉しそうにローブの裾に鼻を擦り寄せた。
「ふふ……どうやら、相棒の判定も満点以上のようですね」
私の言葉に、執務室の中に柔らかな笑い声が響き渡った。




