第73話:貼り付けた笑顔と、折り紙の告発
「私にお任せいただければ、オリカ様を誰からも称賛される完璧な淑女へと育て上げてみせます。時には厳しく、公爵家の権威に恥じぬ指導を徹底する所存です」
ベルガーは胸を張り、淀みなく答えた。
一見すれば情熱的な教育論だが、その口元にはかすかな歪みがある。
(この人、私のことなんて見ていない……見てるのは公爵家の威光と、お部屋の美術品ばかり)
私は手元に用意していた小さな魔導折り紙を一枚、膝の上で素早く折り始めた。
指先から魔力を通し、わずか数秒で完成させたのは、人の心の揺らぎを映し出す淡い桃色の小鳥だ。
ふうっ、と息を吹きかけると、小鳥は音もなく羽ばたき、ベルガーの足元へふわりと舞い降りた。
「ベルガー先生、ひとつ質問してもいいですか?」
「おや、可愛らしいオリカ様。何なりとお聞きください」
大人の余裕を漂わせ、優しげな笑みを浮かべる男に、私はまっすぐ視線を合わせた。
「以前お仕えしていた子爵家を半年でお辞めになった理由は、本当に書類に書いてある『ご両親の看病』なのですか?」
「ええ、もちろんでございますよ。老いた両親を放っておけず、断腸の思いで暇をいただきました。家族を大切にする心もまた、立派な淑女に必要な教育かと存じます」
ベルガーは何食わぬ顔で、さも美談であるかのように滑らかに嘘を並べ立てた。
――だが、その瞬間。
男の足元にいた折り紙の小鳥が、放たれた強烈な悪意と虚飾の魔力を吸い取り、みるみるうちに濁った黒紫色へと変色した。
さらにパチパチと警告の火花を散らし、ドス黒い煙を立ち上らせる。
「なっ……!? な、なんだこれは……!?」
想定外の現象に、初めてベルガーの貼り付けた笑顔が引きつった。
『グルルッ……ガウッ!』
ノワールが鋭い眼光で立ち上がり、男を逃がさぬよう低く唸る。
「この子はね、嘘や後ろ暗い心に反応して色が変わるの。……ベルガー先生、嘘をついていますね?」
私の静かな宣告に、お父様とお母様、そしてお兄様の瞳が一瞬で冷え切った。
「……なるほど。オリカ、見事な見極めだ。ベルガー殿、我が公爵家を欺けると思っていたのか?」
お父様の底冷えする威圧感が部屋を満たし、お兄様の指先にはすでに拘束魔法の光が灯っていた。




