第72話:波乱の面接試験と、一人目の候補者
午後になり、公爵邸の広々とした応接室で面接が始まった。
上座の中央にお父様とお母様、その隣にお兄様。
そして私は、ノワールを足元に座らせてお父様のすぐ隣の席についた。
コンコン、と控えめなノックの音が響く。
「閣下、一人目の候補者をお通しいたします」
執事の案内で入ってきたのは、きっちりと髪を撫で付け、高級そうな仕立ての燕尾服を着た中年男性だった。
書類上の名前は『バルト・フォン・ベルガー』。
没落貴族の出ながら、他家の令嬢を何人も教育してきた実績を持つという触れ込みだ。
「ギルバート公爵閣下、ならびに奥方様、若君様。本日このような栄誉ある場にお招きいただき、心より感謝申し上げます」
完璧な角度の美しいお辞儀。
声のトーンも穏やかで、一見すると何一つ非の打ち所がない模範的なマナー講師に見える。
しかし――。
『……グルル……』
私の足元で、ノワールが喉の奥で低く唸り声を漏らした。
ノワールは悪意や嘘に敏感だ。
(やっぱり……ただのお辞儀じゃない)
私が前世の人生経験と観察眼でじっと見つめると、男の視線が一瞬だけ室内の高価な調度品を品定めするように泳ぎ、さらに私を見下ろす瞳の奥に「たかが7歳の小娘」という侮りと冷たい計算が透けて見えた。
「ベルガー殿、我が娘オリカへの指導方針を聞かせてもらおうか」
お父様の問いかけに、男は自信満々の完璧な笑みを貼り付けて答えるのだった。




