第57話:学院長の訪問と、動かない小鳥
数日後――。
王立魔術学院の学院長である賢者・アルフレッドが、エヴェレット公爵家のお屋敷へと訪れた。
応接室には、ピリピリとした重苦しい空気が漂っている。
お父様は威厳に満ちた鋭い視線で席につき、隣のお兄様も油断なく魔力を巡らせていた。
「ハハハ、そう身構えるなギルバート。今日は旧友の孫……そして将来有望な幼子に挨拶へ来ただけじゃよ」
長い白い髭をたくわえたアルフレッド学院長は、柔らかな笑みを浮かべながらお茶を口にする。
しかし、その瞳は鋭く部屋の空気や魔力の揺らぎを観察していた。
「……学院長。オリカはまだ一歳半の幼子です。特別な魔法など使えはしませんよ」
お父様が冷徹な声で言い放った、まさにその時――。
「あぅ~♪(おじいちゃん、こんにちは~)」
パタパタという可愛らしい足音とともに、私がトコトコと応接室に入ってきた。
私のすぐ後ろには、黒い影のようにぴったりとノワールが寄り添っている。
「おお……! この子がオリカちゃんか。なんと愛らしい……」
学院長が目尻を下げて目線を低くすると、私はトコトコと歩み寄り、大事に抱えていた一枚の【折り紙の小鳥】を「どうぞ」と手渡した。
「まあ、私にプレゼントかい? ありがとう、上手に折れているねぇ」
目を細めて受け取った学院長だったが――次の瞬間、その表情が凍りついた。
(な……なんじゃこの折り紙は……!?)
動いてすらいない、ただの紙。
しかし、一ミリの狂いもない完璧な立体構造と、紙自体から微かに溢れ出る計り知れない高密度の魔力。
一流の賢者だからこそ、手に取っただけで「これが常識を遥かに超越した神級の構造物」だと悟ってしまったのだ。
「ギルバート……お前、使えはしないと言ったな……? この小鳥、一体……!?」
冷や汗をたらたらと流す学院長と、「しまった」という表情で額を押さえるお父様たちの視線が交差するのだった。




