第45話:絶望の降臨と、破壊の雷火
「……ルファス。狂ったか?」
お父様の冷徹な声が、王都の路地裏に低く響いた。
眼前に立つ巨大な黒い獣――ノワールを見据えたまま、手に宿した炎の魔力を消そうとはしない。
「この凄まじい威圧感……どう見ても人を喰らうフェンリル級の危険な神獣だ。
オリカの命がかかっているのだぞ! 言葉も通じぬ魔物など信用できるか!」
「父上、本当です! この首輪を見てください!」
お兄様が必死にノワールの首元を指さす。
そこには、オリカが折ったあの【神獣の誓約輪(折り紙の首輪)】が、オリカの魔力と同じ綺麗な紫色の光を放っていた。
『……わんっ!』
ノワールはお父様の凶悪な殺気にも怯まず、まっすぐにお父様の目を見つめ返した。
アンド、お父様の服の裾をそっと口で引っ張り、一刻も早く助けに行こうと訴えかける。
「……む……」
お父様はノワールの澄んだ瞳と、首輪からあふれ出るオリカの魔力を感じ取り、苦々しく息を吐いた。
「……良かろう。だが、もし我が娘に万が一のことがあれば、貴様もろともこの街ごと焼き尽くすぞ」
「父上、母上は屋敷へ戻してください。屋敷の守りと、万が一のために」
「……分かった。エレノア、お前は屋敷へ戻り待機しろ」
「ギルバート……オリカを無事に取り戻してくださいね!」
お母様を屋敷へ帰すと、お父様とお兄様、そして公爵家の精鋭騎士たちがノワールの後を追って猛スピードで街道を駆け抜けた。
◇
辿り着いたのは、王都郊外の険しい森の奥――鬱蒼とした木々に隠された、古びた地下アジト。
「へへっ、この赤ん坊、白髪紫目で信じられねえくらい高級品だぜ」
「公爵家にバレねえうちに、さっさと売っ払っちまおう……」
暗い部屋の中で、奴隷商人たちが怪しく笑い合っていた。
その中央の台の上で、オリカは縛られているフリをしながら「へえ〜、社会科見学みたい♪」と能天気に楽しんでいた。
頭上から聞こえる怪しい揺れに気づく間もなく――。
ズズズズ……ッ!!
「な、なんだ!? 地震か!?」
次の瞬間――ドカァーン!!!という凄まじい爆音とともに、アジトの頑丈な天井と壁が一瞬で吹き飛んだ!
「ひいっ!? 空が……天井がない!?」
土煙が晴れた頭上には、二つの凶悪な影。
お父様とお兄様が、まさに地獄の魔王のような殺気を撒き散らしながら降臨していた。
「……我が愛娘に汚い手で触れた愚か者は、貴様らか」
お父様の声一つで、周囲の空気が凍りつく。
お父様の手に燃え盛る巨大な炎と、お兄様の手にバチバチと弾ける雷光。
「オリカ……すぐ助けるからね」
凄まじい怒りで目を血走らせたお兄様が、手にした雷を激しく放った――!




