第43話:初めての誘拐と、ワクワクの赤ちゃん
ガタガタガタ……ッ。
(……ん? なんだかすごく揺れる……)
暗い穴をすぽーんと滑り落ちてから数分。
目を覚ますと、私は暗くて狭い木箱のような場所の中に転がされていた。
車輪が跳ねる音と固い振動からして、どうやら馬車の荷台に乗せられているらしい。
(あ、私……誘拐されたんだ!)
前世で病室にいた頃、本の中で読んだ「悪者にさらわれるシーン」そのもののシチュエーション!
恐怖よりも先に、好奇心がむくむくと湧き上がってきた。
(すごーい! これが本で読んだ噂の誘拐ってやつ!?
まさか自分が体験できるなんて……! なんだかちょっとワクワクしちゃうわ!)
手首を見ると、太い麻縄でしっかりと縛られている。
誘拐犯たちも、赤ちゃんだからと油断せずに一応縛っておいたらしい。
(うーん、でもこの縄……)
私がちょいと手首をひねっただけで、ゆるゆるの麻縄からすっぽりと手が抜けてしまった。
(あ、抜けちゃった。
……だよね。私の体に傷一つ付けられるわけないもんね)
私はすっと手首を縄の中に戻し、手首を重ねて「縛られているフリ」をしながら、馬車の小さな隙間から外を覗き込んだ。
「へへっ、大成功だな。エヴェレット公爵家にこんな可愛い赤ちゃんが生まれたって噂は本当だったぜ」
「ああ、白髪に紫の目なんてめったにお目にかかれねえ高級品だ。王都の外のアジトへ運び込めば、大金持ちになれるぞ!」
馬車の御者席から、下品な男たちの話し声が聞こえてくる。
(ふむふむ、奴隷商人さんのアジトに向かってるのね。
お屋敷から出られる機会なんて滅多にないから、ちょっとした冒険みたいで楽しいかも!)
自分がどれほど恐ろしい悪党にさらわれているかも気にせず、
オリカちゃんは呑気に「アジトってどんなところかしら♪」と期待に胸を躍らせているのだった。
(あ、でも……そろそろお父様たち、私が消えたことに気づいて大騒ぎしてる頃かな?)
家族の重すぎる愛を思い出し、
「後で怒られないといいな……」とちょっぴり苦笑いするオリカちゃんであった。




