第40話:秘密のおすそわけ
おやつを食べ終え、エマさんが食器を片付けに部屋を出た隙を見計らって――。
「よし、オリカ。今だ!」
「ばぶっ!(しゅっぱつー!)」
私とお兄様は目配せを交わすと、
足音を忍ばせてこっそりお部屋を抜け出した。
お兄様のポケットには、綺麗にハンカチで包まれたシフォンケーキが入っている。
再び秘密の森へ向かい、あの茂みの前へ辿り着くと、
お兄様が優しく呼びかけた。
「ノワール、もう大丈夫だよ。戻ったよ」
カササッ……。
茂みが揺れて、ツヤツヤの黒い毛並みをしたノワールが姿を現した。
私の顔を見るなり、『わんっ!』と嬉しそうに尻尾をプロペラみたいに振って駆け寄ってくる。
(可愛いーっ! ちゃんとお利口さんにお留守番しててくれたのね!)
私はしゃがみ込んでノワールの頭を撫でながら、
お兄様の服の裾をギュッと引っ張って、「あうー!(お兄様、あれ!)」とポケットを指さした。
「ふふ、分かっているよ。
はい、ノワール。お留守番のご褒美だよ」
お兄様がポケットからハンカチを取り出し、そっと広げた。
中からは、料理長特製のたまごの甘い香りが漂うシフォンケーキが現れる。
『!?!?』
ノワールは目を輝かせ、鼻をくんくんと鳴らした。
私が「どうぞ(たべていいよ)」と頷くと、
ノワールはパクリとケーキを口に含んだ。
『もぐ……もぐ……っ!』
次の瞬間、ノワールの瞳が「感動」で大きく見開かれた。
ふわふわで甘いケーキの美味しさに衝撃を受けたのか、
『きゃんっ! わんわんっ!』と全身で喜びを爆発させて、
私の周りをぐるぐると嬉しそうに走り回る。
(ふふっ、気に入ってくれたみたいで良かったわ!)
「良かったね、ノワール。
これからも僕たちと一緒に、ここで美味しいものをたくさん食べようね」
お兄様が優しく微笑みながらノワールの背中を撫でる。
ノワールは嬉しそうに『わんっ!』と応え、
私とお兄様の膝の間にすっぽり納まって、気持ちよさそうに目を細めた。
(魔法の暴走を抑える特訓もできたし、
ノワールともっと仲良くなれたし……今日は大成功ね!)
木漏れ日が差し込む秘密の森で、
私たちは小さな仲間と一緒に、温かくて幸せな時間を過ごすのだった。




