第39話:おやつの時間と、お留守番
「剣の構え、ですか?
ふふっ、ルファス様は本当に良いお兄様ですね。
オリカ様も、とっても楽しそうにされていて」
エマさんは、お兄様の(下手くそな)言い訳に
全く疑う様子もなく、ほっこりとした笑みを浮かべた。
(助かった……! エマさんが天然で心から助かったわ……!)
「ですがルファス様、オリカ様。
今日のおやつは、料理長が腕を振るった
焼きたての『特製ふわふわシフォンケーキ』ですよ。
冷めないうちに、お部屋へ戻りましょう」
「けーき! ばぶーっ!(食べるー!)」
前世の食いしん坊本能と、赤ちゃんの素直な反応が合体して、
私は思わず元気に両手を挙げて喜んでしまった。
「あらあら、オリカ様も大賛成のようですね。
さあ、まいりましょう」
エマさんが私を優しく抱き上げてくれる。
私はエマさんの肩越しに、そっと茂みの方へ視線を送った。
(ノワール……ごめんね、ちょっとお留守番しててね。
あとで絶対、美味しいおやつをコッソリ持ってきてあげるから!)
私が小さな手を振りながら、目で必死にメッセージを送ると――。
茂みの奥から、
ツヤツヤの黒い耳が『ぴこっ』と動き、
『わかった、任せろ』と言わんばかりに
つぶらな瞳が一瞬だけキラリと光った。
(伝わったー! やっぱり賢すぎるわこの子……!)
「……ルファス様? どうかされましたか?」
「えっ? あ、ううん!
ちょっと風の音が聞こえた気がしただけだよ!
さあエマ、早く戻ってシフォンケーキを食べよう!」
お兄様はチラチラと茂みを気にしながらも、
エマさんに怪しまれないよう、必死に自然な仕草で歩き出した。
◇
お屋敷の部屋に戻り、
たまごの風味が優しく香る、ふわふわの特製シフォンケーキを美味しくいただいた私。
(ふぅ、美味しかった……♪
……じゃなくて! 本番はここからよ!)
私は自分の分をきれいに食べ終えると、
お兄様のお皿をジッと見つめた。
(ノワールにも、この美味しいケーキを分けてあげたい!
でも、どうやってお屋敷から外へ持ち出せば……?)
私が小さな頭を悩ませていると、
隣でお茶を飲んでいたお兄様が、
私にしか聞こえない極小の声でボソッと呟いた。
「オリカ……ノワールの分、ハンカチに包んでポケットに隠したよ」
(お兄様ー! ハンカチまで用意してるなんてグッジョブすぎるーーーっ!!)
さすが自慢のお兄様、考えることは完全に私と同じだったのだった。




