第3話:初めての折り紙、動く
誰にも見つからないベッドの影。
私はうつ伏せになり、
奪取した国家機密書類を
目の前に広げた。
高級な羊皮紙は、
綺麗な長方形をしている。
(折り紙をするなら、
まずは正方形にしないとね)
私は前世の記憶を頼りに、
端を斜めに折って
綺麗な三角形を作り、
余った長方形の部分を
小さな手で丁寧に折り破った。
赤ちゃんの手はふにふにだけど、
魂に刻まれた技術のせいか、
驚くほど正確に指が動く。
(よし、これで正方形の紙ができた。
記念すべき最初の作品は……
やっぱり、これよね)
私が折ることに決めたのは、
前世で何千、何万回と折った
日本の伝統――『折り鶴』だ。
カサリ、カサリ。
静かな部屋に、
紙が擦れる音だけが響く。
角と角を合わせ、
折り目をきゅっとつける。
その瞬間だった。
私の体から、
なにか温かいものが
ドバドバと紙に向かって
流れ込んでいく感覚がした。
(えっ!? なにこれ、魔力!?)
ステータスで見た【MP:∞】。
永久機関のように
自動補充される私の魔力が、
折るという行為を通じて
すべて紙に吸い取られていく。
吸い取られても
一瞬で全回復するけれど、
流れ出る量が尋常じゃない。
(ま、まずいかな……!?
でも、途中でやめられない!)
私は焦りながらも、
染み付いた習性で
最後の手順まで一気に折り進め、
ツルの羽をぐっと広げた。
ふう、と息を吐く。
パパの国家機密書類でできた、
文字まみれの折り鶴が完成した。
(できた……。
見た目はただの折り鶴だけど、
一体なにが起きて――)
パサッ。
私が首を傾げた瞬間、
私の手のひらの上で、
折り鶴の羽が小さく動いた。
(……え?)
見間違いではない。
紙の鶴が、まるで本物の鳥のように、
首を左右にコチコチと振ったのだ。
パサッ、パササッ!
「ふぇっ!?」
思わず変な声が出た。
折り鶴は私の手から飛び立ち、
ベッドの影の狭い空間を、
器用にパタパタと飛び始めたのだ。
まるで、意思を持つ
生き物みたいに。
(う、動いたあああーーーっ!?)
心の中で絶叫する。
ただの紙が、私の魔力を吸って
自律行動する魔力生物(?)に
化けてしまった。
折り鶴は私の周りを
嬉しそうに旋回すると、
私の頭の上にちょこんと着地した。
羊皮紙だから軽いけど、
確かな重みを感じる。
(これが……【折り紙】スキル。
折ったものに命(魔力)を
吹き込むチート能力だったの!?)
とんでもない事実に気づいて、
私はガタガタと震えた。
こんなの、もし家族に見つかったら
一発でアウトだ。
隠密スローライフ計画が
生後数ヶ月で終わってしまう。
「オリカ、ただいま!
会議を爆速で終わらせてきたぞ!」
その時、廊下から
パパの大きな足音が聞こえてきた。
(ひえええっ! パパが戻ってきた!
ツルさん、早く隠れてーーーっ!)
私は大慌てで頭の上の折り鶴を掴み、
服の中に無理やり押し込むのだった。




