第33話:聖獣の名前と、内緒の飼育計画
『くぅ~ん、きゃんっ!』
私の膝の上に乗り、
『なでて!なでて!』と尻尾をプロペラみたいにぶんぶん振る子狼。
……見た目は完全に甘えんぼうのワンちゃんだけど、
放たれている神々しいオーラは本物だ。
(助かったのは本当に良かったけど……
これ、どうしよう!?
公爵邸に勝手に連れて帰ったら、絶対大騒ぎになっちゃうわよ!)
公爵家の広いお庭とはいえ、
「伝説の神獣フェンリル(の幼体)」なんて連れて行ったら、
父上や母上、それに兵士さんたちまで腰を抜かしてしまう。
私が「ばぅ……?(どうしようお兄様)」と困り顔で見上げると、
お兄様は深く頷き、力強く胸をたたいた。
「心配いらないよ、オリカ。
この子が君の従者である以上、野放しにはできない。
……幸い、ここは僕の『秘密の鍛錬場』だ」
(えっ……ということは?)
「父上たちに見つかれば、危険な魔獣として排斥されるか、
君の『聖女』としての力が公になってしまう。
だから――この子はここで、僕たちが内緒で育てるんだ!」
(お兄様との『内緒』が、またひとつ増えちゃった!!)
でも、確かにお屋敷に連れて行くよりは、
この秘密の場所でコッソリお世話をする方が安全かもしれない。
森の奥には帰れないみたいだし、子狼も私から離れる気ゼロだし……。
「よし、決まりだね。
……そうと決まれば、この子に名前をつけなきゃいけないな」
お兄様は腰をかがめ、
子狼のツヤツヤな頭を優しく撫でながら微笑んだ。
「オリカ、君の従者なんだから、君が名前をつけてあげておくれ」
(えっ、私が!?
うーん……漆黒の毛並みに、ほんのり光る綺麗な銀色の毛……。
黒くてかっこいいから……)
私の頭の中に、ふとひとつの言葉が浮かんだ。
「ばぶぅ! のわ……のわーう!(ノワール!)」
私が小さな口で一生懸命呼びかけると、
子狼は耳をピンと立て、嬉しそうに『わんっ!』と吠えた。
「ノワール……か。
夜の静寂と神聖な黒を統べる者にふさわしい、気高くて素晴らしい名だね!」
(ただ前世の知識で『黒』を意味する言葉を言おうとしたら、
舌が回らなくて『のわーう』になっちゃっただけなんて言えない……!)
こうして、オリカちゃんのうっかりやらかしによって、
秘密の森に新たな仲間「ノワール」が加わったのだった。




