第32話:聖獣誕生と、お兄様の驚愕
恐る恐る、後ろを振り返った私。
そこにいたお兄様は――。
案の定、金色の瞳をこれ以上ないほど見開き、
開いた口が塞がらない様子で固まっていた。
「あ……あ……」
(お兄様……! 違うの、信じて!
私はただ『ちょっと痛いの飛んでいけー』って
擦り傷を治そうとしただけなの……!)
私が「ば、ばぶぅ……(言い訳不能)」と涙目になっていると、
元気いっぱいになった子狼が、
『きゃんっ!』と可愛らしく鳴いて私の前に立ちはだかった。
その全身からは、うっすらと神聖な翡翠色の光が漏れ出し、
漆黒だった毛並みは、光の加減で神秘的な銀色にも見える。
完全にただの「黒狼の子ども」ではなくなっていた。
お兄様は震える手で、ゆっくりと自分の額を押さえた。
「……なんてことだ。
治癒魔法……いや、あれはそんな生ぬるい代物じゃない。
失われた生命力を満たし、血統そのものを昇華させる
『神聖なる創世の光』だ……」
(ち、ちがう! ただの生活魔法の『ヒール』ですっ!)
「ただの魔獣だった黒狼の子が……
オリカの手に触れられただけで、
伝説に謳われる神獣『フェンリル』の幼体へと変貌を遂げただと……!?」
(えっ、フェンリル!?
この子、そんな物騒な伝説の神獣になっちゃったの!?)
お兄様はガバッと膝をつくと、
私と、私の足元でゴロゴロと甘えている子狼(元・黒狼)を
神聖なものを見るような目で見つめた。
「そうか……分かったぞ、オリカ。
君は怪我をした哀れな幼子を救うために、
自らの『聖女としての神気』を分け与えたんだね……!」
(違うの! 勝手にシステムが過剰防衛……じゃなくて
過剰回復しちゃっただけなの!)
「かつて初代国王の傍らには、世界を護る聖獣がいたという。
君のもとに現れ、君の光によって目覚めたこの子は……
まさに『聖女オリカ』の従者となるべくして出会った、
運命の聖獣なんだ!」
(お兄様の中で、どんどん私の設定が「神話」になっていくーっ!)
『くぅ~ん!』
お兄様の熱弁に応えるように、
聖獣化(フェンリル化?)した子狼は誇らしげに胸を張り、
私の膝に「すりすり」と顔を寄せてくるのだった。




